いい夜にはお話を 第二夜
カランカラン
「いらっしゃいませ、またご来店してくれたんですね。」
「では、こちらのお席へどうぞ。」
「本日は、ポテトサラダ、オニオンスープ、ボイルクルマエビ、バジルのスパゲッティ、タピオカジュースのアイスでございます。」
「かしこまりました、少々お待ちください。」
~食事を終えて~
「今夜はよく晴れたいい夜ですね。」
「空気の澄んだ空にはおしゃれなカクテルを添えたいものです。」
「その名も『月光』なんてどうでしょうか。」
「それはさておき、今日のお話はこの小さな木の欠片のお話です。」
「この黄色い木の欠片はちなみになんだと思いますか?」
「実はこれ、鉛筆のお尻の部分なんです。最後まで削るとこんなに小さくなるんですよね。」
「この鉛筆は私がこっちに帰ってきたときに買ってもらったものなんです。」
「あの時は1ダース120円ぐらいでしたかね。」
「当時私は帰国したばかりで言葉が分かりませんでした。」
「それでも家の近くの公立の小学校に転校したのです。」
「初めは言葉が分からないので友達はできませんでしたし、放課後は一人で公園で遊んでいました。」
「しかし、ある日公園で遊んでいると同じクラスの女の子が話しかけてくれたんです。」
「でも、言葉が分からなかったので身振り手振りで何とか伝えようとしましたが、思っていることを全部伝えることはできませんでした。」
「それでも、彼女の笑顔だけは言葉の壁を越えてくれました。」
「何を話しているのかわからなくても彼女が私を友達のように接してくれたのは伝わったんです。」
「彼女と遊ぶようになってから私は言葉の勉強をたくさんしました。」
「毎日学校に行っては覚えた言葉を使って、少しでもお話をしました。」
「初めて日本語を話した日、彼女の顔はキラキラしていました。それを見て私もなんだか嬉しくなりました。」
「彼女と話すようになると、クラスの男の子たちとも遊ぶようになりました。私は前の国でバスケットボールをしてたので、その子たちと公園でバスケをするようになりました。」
「公園でのバスケもまた、言葉の壁を越えたんです。」
「シュートが決まれば拍手をして、ゲームが終わるとハイタッチをして解散。」
「日を増すごとにみんな上達していて、嬉しかったですね。」
「スポーツを通じてみんなと仲良くなるにつれて、もっと日本語を勉強しました。」
「なんとか小学校を卒業するまでにある程度日本語を話すことができるようになったんです。」
「その時使っていた鉛筆がこれなんです。もう書くことはできませんが。」
「その子たちですか?」
「中学に上がって何人かはばらばらになってしまいましたが、同じ中学校に上がる子もいましたね。さすがに高校は一緒じゃなかったんですけどね。」
「ご清聴ありがとうございました。」
「お会計ですね。ありがとうございました。」
「またのご来店をお待ちしています。」
カランカラン
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