いい夜にはお話を
いい夜にはお話を 初来店
カランカラン
「いらっしゃいませ。初めてのお客様ですか?」
「では、こちらのお席へどうぞ。」
「本日のコースは、シーザーサラダ、エビのカルパッチョ、ボロネーゼ、サーロインの和風ソース、ラズベリーのアイスでございます。」
「かしこまりました、しばらくお待ちください。」
~食事を終えて~
サァサァサァ
「雨が降ってまいりましたね。お帰りの際はドアの横にある傘をお使いください。」
「えぇ、客足が途絶えがちなので私的には良いとは言い切れませんね。その分お客様にサービスができるのは事実ですが。」
「これですか?このコインにはちょっとしたお話があるんです。」
「そうですか、ではお話さていただくとしましょう。」
「このコインは私が小さいときに住んでいた遠い遠い国で見つけたコインなんです。」
「私にはとても仲の良い友人がいました。」
「名前は...控えておきましょう。」
「彼とは毎日朝から晩まで遊びました。」
「川へ行ったり、海へ行ったり、山へ行ったりして遊びました。」
「そんな時、私の帰国が決まったのです。」
「私は悲しくて何日も泣きました。」
「しばらくして彼に話すと、『僕も悲しい』と言って泣きました。」
「帰国までの間、いつもよりもたくさん遊びました。もう朝から晩までずっと。」
「毎日思い出の場所をめぐってはタイムカプセルを埋めたり、秘密基地の模様替えをしたりしました。森で拾った綺麗な石とか、砂浜で見つけた綺麗な貝殻を箱に入れて埋めました。」
「最近その国は急成長をしているので、あの町がどうなったのか詳しくはわかりません。もしかすると、とっくのとうに大きな町になってるのかもしれませんね。」
「そして帰国の日、あの日は雨でした。」
「私の家族と一緒に彼は空港まで来てくれました。」
「最後に握手をした時の手の温もりは今でも忘れられません。」
「握手の時、私の手に入れてくれたコインがこれなんです。」
「そのコインは、海で遊んでるときに見つけたものです。」
「現地のコインとは模様も傷み加減も違うので、彼も私もとても珍しがってました。」
「私たちの中では貴重な宝物の一つでした。」
「それでも、私にはそこに刻まれた数字以上の価値があるんです。」
「なんか変ですよね、どれくらいの価値があるのかわからない貨幣なのに、私にとっては芸術品や宝石店のアクセサリーよりも価値のあるものなのですから。」
「何年かして、私に一通の手紙が来たんです。」
「読むのに時間がかかりましたが、彼からの手紙でした。」
「白い封筒に見覚えがありそうな文字が書いてあったので、最初は間違って届いたのだと思ったんです。」
「しかし、辞書で調べながら読んでいくとそれはそれは懐かしい内容でした。」
「そのとき私は彼からのものだと確信できたのです。」
「彼は当時のまま同じ町にいるようで、小さな会社を営んでいると書いてありました。昔の遊び場は今も残っているとのことでした。」
「元気でやっているようで、とてもうれしかったですね。」
「またどこかで会えるといいんですけど。」
「お会計でございますね。」
「ありがとうございます。」
「またの来店をお待ちしております。」
カランカラン
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