VERSE4 Reforcus
第22話 原罪と胎動
<駅前>
セリア「原罪を解き放ちましょう」
鍵和田の死後、真導実現会の選挙活動は激化していた。
出馬した犬養の補助要因という形で参加するセリア。
彼女が実質のスピーカーとして認知され、ネット上から情報を聞きつけた聴衆は広場から溢れ出していた。
セリア「世界で最も信仰されている創造主…彼は何故、食べてはいけないはずの果実を純真無垢な2人の楽園に置いたのでしょうか。彼が初めからその木を置かなければ、私達の苦しみは生まれなかった。その作られた苦しみに、私達は今も尚、晒されている」
セリアの隣に佇む犬養は、聴衆の様子を観察しながら、グループ回線の無線で亮太からの合図を待つ。
犬養「…ふ」
犬養の口から、笑みが溢れかける。
旧教祖、尼斑の意思、その継承。
残党として警戒されながらの計画遂行は至難を極めた。
進まない計画に痺れを切らし、薬物を用いた強行手段に出ようとした折、彼が現れたのだ。
犬養(…対馬亮太)
彼の作る新しい世界を見たい。
例え小説の1ページに満たないような小さな変化でも、犬養にとっては大きな意味を持つ。
自分が唯一心から慕った、尼斑無有という人間。
それが今までの犬養を支えた全てだった。
変革の切れ端だけでも、自分の目に焼き付けたい。
彼の思惑とは行き違うとしても、そう願っていた。
そして今、変革の始まりの景色が、犬養の眼前に広がっている。
犬養(…義父さん、見ていて下さい。貴方の意思を、終わらせたりはしない)
犬養は信じていた。
自分達という存在が世界への刺激となり、痒みとなり、痛みとなる。
それらを無視出来なくなった時、この閉塞された世界は変わる。
過去の自分を追い詰め、大嫌いだったカルトに染めざるを得なくした世界。
弱者を痛めつけるだけのこの世界は、変わる。
裁かれる覚悟など、とうに決まっている。
そして亮太からも、自分と同じ意思を感じていた。
亮太『犬養さん、もうすぐこの出来レースにカタをつける。必ず広場には混乱が生じる。セリアがパニックになる前に連れ出してくれ。あいつさ、うるさい場所、苦手なんだ』
亮太から時折垣間見える優しさ。
それは尼斑のものに、何処と無く似ていた。
犬養「ええ、分かっていますよ。…それから」
犬養は聴衆に紛れ込む若者層に目を向ける。
亮太『平和クラブでしょ?鬱陶しいけど、直接の衝突だけ避けてくれれば足は付かないよ。最悪、パンピーに盾になって貰おう』
犬養「了解です」
セリアの演説は続く。
数回の演説を経て、彼女も堂に入っている。
アルビノという神秘的な特性が、彼女の言葉に説得力と彩りを与えている。
セリア「…神。しばしば語られるそれらは、搾取の象徴。…私達には初めから、罪など無かったのです」
<第3ワークプレイス リンカネル>
リンカネルのモニターを見張る亮太の側で、朧はデスクトップPCに向かっていた。
朧「…よし」
亮太「どう?」
朧「最終チェック終わり。公開と拡散はタッチの差だよね?」
亮太「ああ、ネットにもサツが張り付いてるはずだからね。アプリの強制自動通知…そんなのって上手くいくの?俺よくわかんないけど」
朧「街のカメラここに引っ張るより、よっぽど楽だよ。自分で作った物だから」
亮太「んまぁ、それもそうか」
亮太や犬養が進めてきたSNSによる情報操作。
増え続ける承認待ちの”信者予備軍”に対し、古株の”信者”を利用し、ある策を講じた。
スマホアプリ、”AK47”
言うなれば、終末タイマー。
旧実現会の事件の折、尼斑がロシア経由で調達していたライフルの名前をもじったネーミング。
ただ、予言の前に通知が鳴るというだけの簡素なアプリケーション。
朧「アプデで機能追加、っと」
それでも人々はそれぞれに何かを期待し、不安になり、流行りに同調し、ダウンロードした。
一部ではアプリ開発費として金銭を寄贈して来る者までいた。
亮太「こっちもスマホ準備オッケー。電波悪いから上に出る。2分。それまでに公開しちゃって。セリアの方も頃合いだ」
朧「うん!気をつけてね」
亮太「何に?」
朧「心に」
亮太「はは…いつもありがとさん」
寂寥を纏う亮太の背中を見送り、朧は解放する。
閉鎖されていた、旧教祖尼斑のHPを。
朧「…お願いっ」
その軽妙なクリックの音一粒が、リンカネルの暗闇に、重く響き渡っていた。
<第2ワークプレイス ノルン>
亮太は公開された尼斑のHPのリンクを、あらかじめ制作した文面に貼り付ける。
慈眼@zigan
彼は今も、生きている。
(青文字リンク)
地上の電波を拾ったスマホで、間髪入れずに投稿し、亮太は地下へ戻る。
<第3ワークプレイス リンカネル>
モニターには拡大表示でセリアが映し出されている。
亮太「仕上げだ。犬養さん、セリア」
セリア『まさに今、皆に啓示が届くでしょう。世界の答えが、大きな流れに乗って、大きな愛が、私達の元に』
亮太「よし、AK47を」
朧「…いきます」
朧はAK47を起動する。
亮太「セリア、今だ」
亮太は無線でセリアに指令を出す。
街頭モニターとPCディスプレイには即座に反応があった。
朧「上手くいったみたい。それにしても、すごい反応…なんか笑っちゃいそうかも」
ディスプレイのSNS画面には、リプライが殺到し、絶え間なく流れていた。
SNS画面
『アプリ急に鳴ってクソ焦ったわ、』
『私もw緊急速報かと思ったw』
『うっわ、懐かしいなあこいつwやっぱ汚ねえw』
『これ当時の報道には無かったですよね?自信ないですが…』
『無かったよ!俺youcubeで関連漁ってたことあるけどこれは見たことない』
『慈眼様が尼斑と知り合いって事?』
『尼斑ってやっぱぶっ飛んでんなあw残党も絡んでたら怖すぎるんだが…』
『それより、ブログの内容が』
『まずいですよ!(迫真)ミサイル来るううう?ヤバスギィ!』
『茶化すな!出てけ不信仰者!慈眼様が獄中から彼の思念を受け取ったんだよ』
『マジレスwwwいや、でも、笑えないなこれ』
『逃亡中の王子を探せって事だよね?』
『国、救うしかなくね?拳で』
『まじかよ…けど俺らしか居ないもんなあ』
『巴楽町近いから今から行ってみるわ~』
『俺も行こうかなあ、歴史を目の当たりにしたい的な?』
『実況よろ!セリたん大丈夫かなあ心配すぐる』
『セリたんは平気だろ。慈眼様の遣いっぽいし』77
SNS画面 終
亮太「リアルじゃ団塊やバブル期の世代が牛耳ってるけど、ネットはリアルに比べて世代の新陳代謝が良いんだ。
ネットではどの世代も第1世代の自負がある。反応もずっと速い、民法のニュースなんかよりもね」
朧「ゆとり世代を生み出しておいて、これだからゆとりは!なんて、無責任に言われてきて…そんな石頭おじさん達に直接ぶつかろうなんて、思わないもんね」
亮太「きっとさ、ネットはそんな抑圧された世代や、社会に弾かれた人達のリアルなんだよ。もうネットとリアルは無意識のうちに交わり始めてるんだ」
朧「ネットはネット、リアルはリアル。そんな時代はもう、若者から柔軟性のある大人にとっては終わってるんだよね」
亮太「まあ、そのおかげで俺たちに足が付かないんだから結果オーライだね」
朧「私のIPすり替え作業、重要だ…い、胃が…」
亮太「はっはっは、気負わないでいいって!バレたらそんときさ!…それより理紗、集合的無意識”って知ってる?」
最近の亮太は、笑い方が変わる時がある。
朧には理由が分からない。
それは子供が親の言葉を真似するような、或いは弟が兄の真似をするような、そんなイメージに近かった。
朧「あ、なんかそれ聞いたことある。人は無意識でみんな繋がってる、みたいな…オカルト話だよね?」
亮太「…俺はそういうの、あるって思ってるんだ。人は無意識の中で流れに乗ってる。ネットも、あらゆる現象も、森羅万象ってやつ?の一部。…俺たちの存在も、その一部に過ぎない。元を辿れば、全てがひとつなんだ。意識も、未来も、過去も、今も」
朧「亮太…?」
朧は、亮太の変化を感じていた。
微細な、そして確実な変化。
日に日にそれは大きくなっていた。
亮太「なんてね!これじゃ本当にカルトの教祖みたいだよね。次の作戦の話だよ。ごめん、勘弁…」
亮太は自嘲する。
朧「ううん、気にしないで!だいじょびっ」
亮太は疲れているのかもしれない。
たった1人で数多の人を騙し続け、唯一信頼していた鍵和田をも、心を殺し、手にかけた。
本当の亮太は、誰よりも優しい。
朧はそれを知っている。
今の亮太を支えられるのは、似た境遇で生きてきた自分しか居ない。
その時の朧は、確かにそう感じていた。
亮太「そろそろ二回目の取材だ。理沙、セリアと犬養さんが引き上げるの、モニターで確認頼む」
朧「うん、分かった。亮太、どこへ?」
亮太「取材の前に、腹空かせた友達に会ってくる」
亮太はリンカネルを後にした。
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