VERSE3 Rage Again
第15話 預言者と演説
【低血圧な時代に、新たな視覚を】
<駅前 夜>
犬養「先日の警視庁眼球郵送事件。失踪後記憶を失い発見された政治家。この街の権力の象徴がひとつの命を落とした。非雇用者…ホームレスの連続失踪…同時多発宗教施設爆破事件…」
繁華街を行き交う人々は、犬養の言葉に関心を示さない。
ある者は通話を阻害され怪訝な目を向け、ある者はイヤホンで雑踏そのものを遮断している。
しかし、少数の者は選挙カーの直下で興味を示している。
面白半分にスマートフォンの動画機能を向ける女子高生。
道端から自分の行く末を案じて耳を傾けるホームレス。
正義感を彷彿とさせる意思の強い瞳でシャッターを切る茶髪の若者。
年の頃は亮太と同じ位だろうかと、犬養は推測する。
派手な選挙活動はネットを通じ、拡散されていた。
そこに亮太の予言が後押しし、様々な憶測が飛び交う。
TV局の取材を経て、実現会はさらに世間に認知され始めていた。
犬養「セリアさん、後は頼みます」
セリア「ファントム、お疲れサンバディトゥナイ」
犬養「しっかり頼みます。…本当は貴女を表舞台に立たせたくはなかったが」
セリア「後は、セリアに、お任セリア」
セリアのバッグに付けられた、イルカの限定キーホルダーが揺れる。
犬養「…慈眼からのメッセージ、しかと民に伝播して下さい」
セリアという実現会の聖像。
マスコット的なヴィジュアルとキャラクターの存在が、ネット上での拡散を加速させている。
犬養はSNSを確認する。
実現会は、ハッシュタグランキングの常連にまで成長していた。
SNS画面
メメントモリ男ツイートに連結リプライスライド表示
今日のセリアたんだよ〜
画像付き
ぐうかわ
『セリアたんprpr』
『この子が予言してるってマ?』
『いや、ソースがない。ワイの調査ではRYOCHIGEかチョベ速の管理人が怪しいんや。クラッキングが出来る凄腕ハカーがバックについてるやで〜』
『いやいやそれはないでしょwあの人はただのラッパーだよ。新曲まだかなぁ』
『え、選挙のメガネじゃないの?』
『あんなむっつりインテリに予言とか無理だろ
w』
『もっとこう、見た目からシャーマンじゃないと萎えるわ〜』
犬養「…ピキッ。…慈眼、これも貴方の計算の内…感服致します」
犬養は独りごちると、セリアにマイクを手渡した。
選挙カーから流していた亮太お手製のマーチを止める。
この曲も動画サイトで面白おかしくコメントが飛び交い、再生数は急上昇している。
セリアはマイクを受け取ると、幾度となく繰り返した最初の文言の読み上げを始める。
トーン、目線、声色、緩急。
亮太の指導の元、朧と共に何度も繰り返し練習した文言だ。
セリア「善いとか悪いとか、
そんな観念を超えた場所がある。
そこであなたと出会う。
その芝生に魂が横たわるとき、
世界は言葉で語り尽くせない。
観念も言語もどんな名言も
何の意味もなさない…」
通行人「おい、始まったぞ!セリたんの演説!」
通行人「まじ!?行こうぜ!今日こそツーショット撮りてえ!」
通行人「むぉー、握手会はよ〜」
女子高生「うわ、オタクきも。…うわあ、本当にお人形さんみた〜い!」
女子高生「生の方が断然かわいい!やばー。インスタバエー!ねえ、近くいこ!スノーでツーショット撮りたい!」
通行人「これだから3次元ビッチは…」
通行人「セリたんだって3次元だろw」
通行人「セリたんは2.5次元!」
<第3ワークプレイス リンカネル>
朧と亮太は、リンカネルのモニターを繁華街の監視カメラ回線とつなぎ、選挙活動をモニタリングしていた。
クラッキングや配線関係は、理系の知識や亮太の役に立ちそうな様々な勉強を積んで来た朧の得意分野だ。
朧「あの政治家、どうやって記憶を?」
亮太「三日三晩水かけて眠らせない&電気当てて柿ピーの薬。捕虜の傭兵によく使う手らしい。政治家への牽制だよ。お前らもこうなるぞ、ちょっとは頭使えってね」
朧「ああ、なるほど…それにしても、こんなに上手く行くなんて」
亮太「ポスターにもあるけど…低血圧な時代背景に、俺たちの存在はマッチする。みんな爆発を待ってる、特にネットの中じゃ…そんな民衆のリアルがモロ見えだ。TVには映らないけどね」
朧「昔の事件の残党…みんな、閉塞的な日常を壊す何かが起きることを、私達に期待してる」
亮太「ああ。失業者の増加、バブル期に蔓延した異様な空気、鬱屈した不安定な若者。さらにオリンピックを控えて、あの時代と今と、そっくりじゃないか?そこに時代の象徴が在れば尚更さ。彼女はマッチポンプだ」
亮太はモニターのセリアを指差す。
朧「うわ〜。すごい人気だね、セリちゃん」
亮太「萌えは世界を救済すんのさ」
亮太は鍵和田からの依頼で実現会に潜入した当初から、セリアのヴィジュアル、アルビノという特性に目をつけていた。
朧「ほんと、変わってない…あ、」
亮太「…あの時止めた事、ずっと後悔してた」
朧「えっ?」
亮太「いや、なんでも」
朧の驚きの表情、動作。
それは偽りのないものだった。
カマをかけた亮太は、確信に至る。
あの時の、屋上での邂逅。
その女子高生の正体を。
朧「も、もしかして…?亮太、あのね…あの時」
亮太は笑顔を作る。
亮太「あの時、最初の取材で会話止めたの、ミスったかな?ミステリアスな雰囲気も演出しとけば良かった。後悔、公開…」
朧「あ、ああ。小林アナが近づいて来た時の…?」
亮太「そうそう。あんなキモい演技は要らなかったかなってさ〜」
朧「そ、そうだよね。次はもっと…」
朧は、過去を言い出すタイミングをここ数日、何度も逸していた。
勇気が出ないのだ。
亮太「よし、人が集まるまで上手く間を開けたな。…そろそろ始める。セリア、上手くやれよ…」
亮太は無線を付け直す。
朧の母親。
亮太の父親を殉死に追いやった張本人。
亮太はそれを、知っていた。
<駅前>
セリア「…この瞬間、この愛が。
私のもとへ安らぎに来る」
駅前の中央広場には、選挙カーを中心に人だかりが出来ていた。
通行人「…なんか、聞き入っちゃうなあ」
通行人「静かに。聞こえない」
駅前の雑踏。
その中で、選挙カーの周辺だけが、切り取られたような静寂に包まれていた。
人が人を呼び、人は尚、集まり続ける。
セリア「ひとつの存在のなかに、多くの存在が訪れる。
ひと粒の麦のなかに、千束の干草。
針の目の内側に星々が輝く夜…」
その文言が終わると、静かな拍手が中央広場に広がる。
セリア「先日の警視庁眼球郵送事件。失踪後記憶を失い発見された政治家。この街の権力の象徴がひとつの命を落とした。非雇用者…ホームレスの連続失踪…同時多発宗教施設爆破事件…」
先程犬養が繰り返し説いた言葉。
セリアは一字一句違わぬまま、聴衆に伝える。
聴衆「え、あの、ネットの…tritterの?」
聴衆「@zigan_hz…慈眼…慈眼様の遣いだ…!」
聴衆「つ、次の予言!次の予言は!?」
聴衆「この国は、どうなるの!?」
民衆は次第に騒ぎ立てる。
まるでネットでの人格が、リアルに漏れ出たかのように。
亮太(無線)「よし、一度間を置け。静かになるまで。セリア、ここまでは”はなまる”だ」
セリア「…………」
セリアは聴衆が静まるまで目をつぶり、眉間に手を当て、間を開ける。
ワイヤレスのイヤホンモニターから流れる亮太からの指示を、的確にこなす。
亮太(無線)「そろそろ続きだ。人が集まりすぎた。警察の介入までに、次の予言を」
セリア「…これは啓示なのです。新たな時代の幕開け…アセンションの時は近い」
聴衆「…………」
広場の誰1人、セリアの演説を邪魔するものは居なくなっている。
亮太(無線)「上手に出来たら、みんなでお菓子を食べようって、理沙姉ちゃんが」
セリアは一歩前に出る。
そして、両手を広げ、空を仰いだ。
鬼道を扱い民を導いた、日本史最古の預言者のように。
亮太(無線)「ぶちかませ、セリア」
セリアは大きく息を吸う。
外の空気は、新鮮だった。
新鮮な空気を吸わせてくれる朧と亮太、そして何時も気にかけてくれる犬養の為に、セリアは頑張ると決めていた。
犬養「……」
隣で見守る犬養は、視線で頷く。
これが、先天性のアルビノと高機能自閉症で誰にも必要とされず、両親が関わった過去の事件後、社会から疎まれ身を隠して生きてきた、自分の使命。
セリアは、疑うことを知らなかった。
セリア「12月25日…太陽と月が交わる夜。力学の中心は東の都に集まり、北の邪心は目覚めるであろう。2つの瞳は支配し、偽りの黒煙に大地は揺れるであろう」
-noise-
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