第5話 樹雅奏瀬と天沢悠都

ずっと傍にいて欲しい_______________

構ってちゃんな俺ちゃんは結構誰にでもそんな感情を抱く。同級生にも、先輩にも、先生にだって、もちろん親にも。でも彼だけは、とーくんにだけはもっと深い、黒いドロドロとした醜い感情をいつからか抱いていた。


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「お話があります、とーくん」

「なんだよ、そんな改まって……」

「今日、俺ちゃん一人で帰ったんだけど」

「そうだな、今日はクラスの事で遅くなったしな」

「俺ちゃん一人で帰るの最近多いんだけど」

「まぁ、俺にも俺の予定があるからな」

そう、淡々と言うのは俺ちゃんの幼馴染でこ、恋人でもあるとーくんこと天沢悠都くん……?さん?だ。ちなみに今は俺ちゃん特製オムライスを食べている。何故なら今日はお泊まりの日で俺ちゃんが食事の当番だったから。せっかくとーくんと買い物行って、家に帰ってご飯作って一緒に遊ぼうと思ってたのに、いざ部活が終わったら『クラスの事で用事あるの思い出したから今日は先に帰ってて』だよ?でも、とーくんに迷惑はかけたくないし、困らせたい訳では無いからしぶしぶ一人でスーパーに寄ってから帰ってきた。食事の支度中にとーくんが帰宅。今は一緒にオムライスを食べているという状況だ。

「とーくん、最近冷たい……」

「そう?奏瀬の気のせいだろ?」

「ほら!それ!!!!」

「ん???」

「奏瀬って呼び方!昔はかなちゃんって呼んでくれてたのに……」

「それは……その、なんだ……」

「ま、まさか……!やましい理由があるんじゃ!」

「いや、違う……ただ、恥ずかしいだけなんだ」

「恥ずかしい?なんで?」

「なんでも!」

「え!?教えてよとーくん!」

「やだ」

「あっ……じゃ、じゃあ、さ……」

「ん?」

「あっ……えっと」

こんなお願いしたらとーくん困っちゃうかな。困らせたくないな……言わない方が……

「かなちゃん」

「…ッ!」

「言っていいよ、俺に聞かせて?」

「……い、いまみたいに……」

「うん」

「二人っきりの時だけでいいからかなちゃんって呼んで……ほしい……」

とーくんの反応が怖くて俯きながら言ってみた。一言も発さないとーくんを不思議に思いチラッととーくんの顔を覗いた。そこには口を開いてポカーンとしているとーくん。

「と、とーくん……?」

「そんなことで悩んでたの?」

「そんな事じゃないもん!大事なことだもん!」

椅子から飛び上がり、とーくんの後ろへと移動してぎゅっと彼を抱きしめた。

「俺ちゃんにとっては……そんな事じゃないんだよ、とーくん」

「はいはい、わかったわかった」

「とーくん適当すぎ」

さらに強く抱きしめる。

「力強いよかなちゃん、何?また甘え周期?最近多いぞ」

「俺ちゃんはずっと甘え周期だよ」

とーくんの肩に顔を埋めると大好きな彼の匂い。1番安心する。頭に手が乗せられ、ゆっくりと動く。彼に撫でられるのが1番好きだ。

「とーくん、ソファいこ?」

「ん、いいよ」

ソファに2人で移動し、座ると同時に俺ちゃんはとーくんの腰に抱きつく。一瞬ビクッとなったが、またすぐに俺ちゃんの頭を撫でるとーくんはもう既に慣れている様子だ。

「とーくん……俺ちゃんさ、結構嫌な奴だったよ」

「どうして?」

「今日、とーくんがクラスの人と仲良さげに話してるところ見ちゃって、俺ちゃんのとーくんなのにって思ったらなんか胸の辺りがモヤモヤしたりムカついちゃって…帰りだって別々だし、俺ちゃんといるよりそっちの方が楽しいのかなって…最近そういうこと多くて、だから……」

「あぁ、そっか……かなちゃんは昔から独占欲強めだったな、忘れてた」

「やっぱりめんどくさい?」

「別に、もう慣れたし…独占欲丸出しのかなちゃん見てるとさ、愛されてんだって思えるからまぁ、悪くは無いと思ってる」

「ほんと?」

「本当に。だから、無理して変わろうとしなくていいよ。かなちゃんはかなちゃんらしくいればいい」

「……とーくんがそういうならそうする」

俺ちゃんの中に潜む醜い感情をとーくんは『独占欲』と言う。初めてそう言われた時、すとんと何かが埋まった気がしたのを覚えている。とーくんは変わらなくていいと言った。だから、これからもきっととーくんにだけの独占欲を背負いながら生きていくのだろう。そう思ったら不思議と嫌ではなかった。

「不安になるだろうけど、安心しろ。俺の好きな人はずっとかなちゃんだけだよ」

「俺ちゃんもとーくんだけだよ、今までもこれからもとーくんしか恋人いらない」

彼が好きでいてくれるそれだけで俺ちゃんの心は満たされる。構ってちゃんで寂しがり屋な俺ちゃんはすぐに不安になって心にポカンと穴が空いてしまうけどその度に彼が埋めてくれるのだ。今までもそしてこれからも。

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樹雅奏瀬シリーズ 茜称 @no77nana

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