第4話 樹雅奏瀬と月島怜
かっこいいと思った。憧れにも似た存在。歳がひとつ違うだけで人はこんなにも大人に見えるのだ。なりたいな、なれればいいな。彼のようになれたら_______________
「兄貴ー!!」
「お!かなー!!こっちこっちー!」
ある日の休日、兄貴こと月島怜先輩が楽器屋巡りをするとの事でそれに同行させてもらうのだ。
「兄貴私服もかっこいいっすねー!」
「そう?かなはイメージ通りだな」
「子供ぽいっすか?」
「全然、かならしくていいと思う」
そう言って兄貴はにこっと笑った。それにつられて俺ちゃんも笑った。
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「兄貴ー」
「んー?」
「まだっすかー?」
「まだー」
「あとどれくらいっすか?」
「5時間くらい?」
「めっちゃかかるじゃないっすか……何見てんすか?」
「ドラムのバチ」
「ほほー」
「かなも見といた方がいいぞ、自分にあったバチ見つかった時のフィット感とかたまんない」
「俺ちゃん空腹感うめたいっす」
「あ、もうお昼?」
午前中に待ち合わせて楽器屋巡りをして早数時間、俺ちゃんのお腹は限界に近かった。兄貴は真剣にCDやらドラムやらを見定めていた。その眼差しは真剣以外の何物でもない。その目に惹かれていたのは内緒だ。時間を見計らい兄貴に声をかけた。楽器屋を後にし、近くにあったファミレスへと寄った。メニューを見てラーメンがあったので俺ちゃんはとんこつラーメン、兄貴は塩ラーメンを頼む。
「ごめんなさい、俺ちゃんのわがままで」
「……?なにが?」
「兄貴、もっと選びたかっただろうに…俺ちゃんがお腹すいたから」
「でもかなはお腹すいたんだよな?」
「はい」
「空腹なんて誰にでもあるんだし、気にすることじゃないと思うけど」
「……だけど、兄貴の時間邪魔しちゃったし……」
「邪魔してない、俺は楽しかったぞ?」
「そうっすか?」
「うん」
そんな会話をしていると注文していた品が届いた。運んできた店員さんにお礼を言いながら品を受け取る。
「というか、かなはもっとわがままになっていいと思う」
「……俺ちゃん今でも結構わがままっすよ?」
「え?今で?……はぁ、アイツにも見習わせたい」
「アイツって、風弥先輩っすか?」
「そう」
風弥伊吹先輩は兄貴の幼馴染でいつも一緒にいる。俺ちゃんの尊敬する先輩の1人でもある。
「風弥先輩と兄貴、幼馴染なんすよね?昔からあぁだったんっすか?風弥先輩」
「まぁ、あまり変わってはいないな……………うん、変わってない」
「ふふっ、兄貴風弥先輩のこと大好きっすね」
「え?なにいきなり……」
「だって兄貴、風弥先輩の話すると楽しそうだし嬉しそうだから」
「…………そんなニヤけてる?俺の顔」
「まぁ、ニヤけてるというか微笑んでるというか」
「……この話、伊吹には内緒だぞ?」
「なんでっすか、いいじゃないっすか!風弥先輩喜びますよ」
「いじられるの間違いだろ」
なんだかんだ言って兄貴は風弥先輩大好きだ。俺ちゃんにも幼馴染がいるからなんとなくわかるのだ。
「かなにもゆうがいるだろ?いいよな、ゆうは手がかからないし真面目でしっかりしてるから」
「とーくんホントに抜け目なくって……俺ちゃん、いらないんじゃってくらいしっかりしてるんすよ」
「かな……?」
「とーくんは俺ちゃんの自慢の幼馴染なんすよ!」
俺ちゃんはそう笑顔で言った。
「……ゆうは、かなにもっと頼って欲しいっ思ってるんじゃないか?」
兄貴はそう悲しそうな顔で言った。
少し驚いた。予想の斜め上の回答だったから。でも、でもね……
「…………兄貴ぃ、それは無理っすよ」
「なんで?頼ることは悪いことじゃないだろ?」
「いや、俺ちゃんも頼りたいんすけど……怖いんすよ、頼ることに慣れたらヒートアップしそうで、いつか頼られるのが迷惑になっちゃったら……俺ちゃん、とーくんに迷惑かかるの嫌だし……」
「……そんな深く考えたことなかったな」
「俺ちゃんの考えすぎかもっすけど、そう思ったらなかなか……」
「そっか、じゃ……俺を頼れ!」
「はい?……あ、兄貴?俺ちゃんの話聞いてたっすか?俺ちゃん、とーくん以外にもあまり頼るのは得意じゃなくてっすね!」
「じゃあ、俺が教えてやるよ!こういうのは慣れだ慣れ」
「慣れ……っすか」
「そう、慣れ……ん?」
ピコンと兄貴の携帯が鳴った。誰かからのメッセージがきたのだろう。兄貴は携帯をとり、その後すぐに笑顔になった。
「かな、人呼んでもいいか?」
「いいっすよ?誰っすか?」
「俺らの幼馴染」
兄貴は携帯の画面を見せてくれた。相手はどうやら風弥先輩のようだ。
風『今、どこにいる?』
怜『いつもの楽器屋の近くのファミレス』
風『あ、近くじゃん。今悠都くんと一緒にいるんだけど、奏瀬くんもいるんでしょ?合流しない?』
怜『OK』
と書かれてあった。
「とーくん、今日用事あるって言ってたの……風弥先輩とのお出かけだったんだ」
「良かったなかな。かなの大好きなゆうに会えるぞ」
「まぁ、今日はお泊まりの日なんで会うっちゃ会うんすけど」
「お前ら、いつもお泊まりしてるな」
「そうっすか?」
「結構だと思う」
「とーくんが俺ちゃんを気遣って……実は
…昔、とーくんに寂しいって言ったらお泊まりしてくれて、多分それが始まりっすね……忙しくても来てくれて、ま、そのおかげで寂しさは少なくなったんすけどね」
「そっか……」
「俺ちゃん、兄貴になりたいっす」
「俺?」
「兄貴みたいにしっかりしてれば、とーくんにも迷惑かけなかっただろうし、兄貴かっこいいから」
「……かなは俺にはなれないよ」
「え?」
「だって、かなにはかなのいいとこあるじゃん、それを失くすのは勿体ないことだぞ」
「……でも」
「それに、かっこいい……のかはわかんないけど、俺は伊吹がいるからしっかりしてるだけで伊吹いなかったら俺だっていい加減だぞ?」
「そうなんすか?」
「そう、今日だってかながご飯って言わなかったらあの場から動かなかったし、ある意味俺を止めてくれるのも伊吹だし……まぁ、あれだ、支え合って付き合っていく……みたいな?……俺の言いたいこと伝わってる?」
「……???」
「あー、分かってない顔だな、うん……ま、こういうのは理屈じゃなくて感覚だ、かなにもいつかわかる日が来るよ」
兄貴は俺ちゃんの頭を撫でた。兄貴の話は難しくてよく分からなかったが、どこか心にくるものがあった。俺ちゃんがとーくんに出来ることってなんだろう。
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「あ、怜ー!」
ファミレスから出て、すぐに風弥先輩ととーくんに合流。とーくんは疲れた顔をしていた。
「…………伊吹、お前ゆうに何したんだよ」
「……?一緒に買い物しただけだけど?」
「じゃあ、なんでこんなやつれてんだよゆうは」
「…………なんでだろ」
「はぁ、どうせお前がまた忘れ物とか落し物でもしたんだろ……、やっぱり俺がいないと……かな」
「そうだね、怜がいれば安心して忘れ物出来るし」
「直せよそのだらしなさ」
「無理かな」
「即答をするな」
完全に風弥先輩と兄貴の世界だ。俺ちゃんはとーくんの隣に移動する。
「とーくん大丈夫?」
「疲れた」
「……今日お泊まりだけど、中止にする?」
「え?なんで?」
「だって、とーくん疲れてるでしょ?」
「かなちゃんの家で休めばいいじゃん、どうせこれから帰るんだろ?」
「…………」
「え。なに?なんでそんな見つめんの?」
「いや、なんていうか……嬉しいなって」
「は?」
「あはは、俺ちゃんにもよくわかんないや……よぉし!今日は俺ちゃんが料理する!とーくん何食べたい?」
「なんでもいい……」
「えー」
今はまだ全てを話したり頼ったりってことは出来ないけど、兄貴が言ったように徐々に頼ることを慣れていったら、その時は……今のように笑って俺ちゃんを助けてくれるだろうか。もし、君が迷惑と感じないのであれば、どうかこんな俺ちゃんの傍にいてくださいといつか言える日まで_______________
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