第2話 樹雅奏瀬の入部
樹雅奏瀬、13歳 で中学一年生。部活はまだ決めていない。5月に行われた部活動説明会はそれはそれは凄いもので、もうどのくらいの部活があるのか分からない。どうもピンとくるものがない、運動部にするか……まだ未開拓の文化部にするか……。いっそ帰宅部なんてのはどうだろう。まぁ、部活には必ず入部しなくてはならないのだが、はてどうしたものか。
部活動説明会から数日、俺はまだ決めあぐねていた。
「部活の見学に行けばいいだろ」
「とーくんはどーすんの?俺ちゃん1人で見学なんてやだよ、寂しいじゃん」
「いや、俺も行きたいとこあるし」
「とーくんはそうやって俺ちゃんを置いていくんだ!クラスも離れちゃったし!そりゃ、とーくんはもう友達出来たかもだけどさ!俺ちゃんなんてまだクラスメイト全員と一言くらいしか交わしてないんだよ!?」
「いや、もうクラスメイト全員話せていることが凄いことだとなぜ気づかない」
「ねー!とーくん〜!」
「やだよ、どーせお前運動部だろ?勧誘されてないのか?お前、小学生の時結構いろんな試合とか助っ人してたんだし、どっかの運動部1つくらいなら話あるんだろ?」
「一応、サッカー部には勧誘されてる。前に、見学行って…」
俺ちゃんは、自分で言うのもなんだが運動はできる。結構どんなスポーツも。
「じゃ、サッカー部でいいじゃんか」
「うー、とーくん冷たい」
とーくんはそんなことはないとだけ言い残し、クラスメイトらしき男子生徒に呼ばれそっちへ行ってしまった。俺ちゃんがほんの一時でもボッチを嫌うことを知ってるのにやっぱりとーくんは意地悪だ。
「とーくんいないと、寂しい……」
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「君!良かったらどうだ!?ぜひ、うちへ!」
こちらはバスケ部の先輩。
「いいサーブだった!バレー部へ!」
こちらはバレー部の部長さん。
「よいカバディだったぞ」
こちらはカバディ部の人。てか、カバディ部ってなんだ。
「君には卓球のさいn」
こちらは卓球部の人。
運動部はあらかた見学しつくしてしまった。どれもイマイチ。きっと強い部活は強いのだろうが、どうも俺ちゃんに合ってない気がする。新しいことをしたい。小学校では出来なかったことを。この学校で見つかるだろうか、たったの3年間でこの部活で良かったと思えるようなそんな所に。玄関で夕暮れの空をぼーっと眺めていると、後ろから聞きなれた声がした。
「お前、なにしてんだ?」
「……とーくん待ってた」
「俺が帰ってたかもしれないのにか?」
「下駄箱ちゃんと見たし、とーくんは俺ちゃんに断りもなく勝手に帰ったりしない。俺ちゃん知ってんからね」
「はいはい、名推理名推理」
「でしょー?はやく帰ろとーくん、俺ちゃん今日とーくんのカレー食べたい」
「今から買い出しだと遅くなるけど」
「……じゃ、カップ麺」
「そうしてくれ」
「とーくん、今日はどこ行ってたの?文化部?」
「まぁ、美術部とか……クラスの奴が行きたがってて付き添いで」
「俺ちゃんには付き添ってくれなかったのに」
「男の嫉妬は醜いぞかなちゃん」
「嫉妬じゃないもん、焼きもちだもん」
「それ同じ意味だから」
「とーくん決めた?部活」
「まだ……沢山あるから困るよな」
「そうだよね、俺ちゃんも困りに困ってる」
「掛け持ちは?」
「してもいいけど、運動部だと合宿とかあるって聞いたし」
「嫌なのか?ひとりぼっちじゃないし、良くない?」
「俺ちゃんボッチ嫌いだけど、誰とでも一緒ってのはまた別。今はとーくんが1番安心するし、一緒にいたい」
「…………ピュアっ子が(ボソッ」
「なんか言った?とーくん」
「別に」
校舎から少し歩いていると、楽器の音が聞こえてきた。歪だし、上手いとは言えないその音は何故か俺ちゃんの足を止めた。隣を歩いていたとーくんもその場で止まっている。あぁ、そう言えば昔は音楽に結構助けられていたっけ。最近はあまり聞いてないな。
「昔、とーくんバイオリンしてたよね」
「それが?」
「また聞きたい」
「無理だな……もうやめたし、ブランクあるだろうし」
「もうやんないの?」
「さぁな。未定だ」
残念だ……俺ちゃん結構とーくんのバイオリン好きだったんだけどな。そう思いながら俺ちゃんは歩き出した。
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「みつかんなーーーい!!」
1人スタスタと廊下を歩く。移動教室の帰り道、何故かクラスメイトは俺ちゃんだけを残し既に教室へ帰ってしまっていた。とんだサプライズだ。ふと目に付いた掲示板には、大量の部活勧誘のチラシが、ほぼ隙間なく貼られていた。その隅っこにノートの切れ端のような紙。場違い感がすごい。控えめな字でその紙にはこう書いてあった。
『ブラスバンド部』
この部活は確か、ある意味目立っていた部活だ。確か部員が1人しかいなくて、廃部寸前……だったよな。もしかして昨日のあの音はこの部活の人が?初心者歓迎とかも言っていた気がする。……俺ちゃんも歓迎されるだろうか。何かに惹かれたようにその紙から目が離せなかった。そうだ、これにしよう。まだあった、俺ちゃんの未開拓の地が。スポーツでもそこらの文化部とかでもない、音楽という名の俺ちゃんの恩人みたいなもの。その音楽に関係するこの部活なら、もしかしたら楽しめるかもしれない。
「俺ちゃん、このブラスバンド部にきーめたッ!!!」
そうと決まれば今日にでもあの青髪の先輩を探して入部させてもらおう!!俺ちゃんは勢いよく駆け出した。
「1年!樹雅奏瀬!気軽にかなちゃんって呼んでほしいっす!」
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