議論はめぐる~後編~
「それはそうと、お前ら。向こうの世界のリンドと連絡とか取れないのか?こう、テレパシーみたいな感じで」
デスターク・エビルフェイズとサリィがきょとんとした顔でお互いを見た。
「そんなことできるんだっけ?サリィ」
「知らないわよ、禿。あんたの方が魔力あるんだから、やってみなさいよ」
「そんなこと言われてもな……」
やっぱりこいつらを頼りにしたのが間違いだったんじゃないだろうか?だんだん不安になってきた。
「とりあえずやって見るか……ぬん」
瞑想を始めるデスターク・エビルフェイズ。
「ねぇ、ところで、どうなのよ?」
「何がだよ?」
「今夜のことよ。私の家にする?それともあんたの家?あるいはホテル?それとも外?」
「一向に話が見えんのだがな」
「見返りよ、見返り。同然、支払ってもらうからね」
「支払うって……」
「うんもう。分かっているくせに……。うふふ、こんな硬くしちゃって……」
「ちょ、おま!どこ触って……」
「がぁぁぁぁぁぁ!集中できるか、ぼけぇ!」
両手で机を叩き怒りを露にするデスターク・エビルフェイズ。
「ちょっと、邪魔しないでよ」
「邪魔しておるのは、お前らだろう!」
「僕は邪魔してないぞ!」
「うるさいわ!折角、何か感じそうだったのに!」
「うわっ。私達の情事を聞いて感じるなんて……変態にもほどがあるわ」
「違うわ!」
「落ち着けよ、お前ら。全く……。で、何を感じたんだ?」
「うむ。残念ながらリンドの思念を捉えることができなかった。しかし、余の思念を飛ばすことで、あっちの世界がどうなっているかおぼろげながら分かった」
「本当か?」
僕は身を乗り出した。情報が皆無である以上、どんな内容の情報でも今は欲しいところだ。
「少なくとも余達がいた世界の姿は完全に失っている。エビルパレスの周りには宇宙戦艦が飛び交い、魔法使いと人型ロボットが戦っている……。なんちゅう世界だ」
魔王の城に宇宙戦艦。魔法使いにロボット。世界が滅茶苦茶になっている。ザイが世界を統合している結果だろうか。
「それマジ?それってやばくない?」
「やばいかどうか知らんが、尋常ではあるまい」
「待てよ……。ザイは統合した世界を壊すつもりじゃないのか?」
僕はその可能性については考えないでもなかった。世界が乱れれば崩壊する。だからこそ僕は、世界を本来の姿に是正するために戦ってきたのだ。
ザイは当然ながらそのことを知っているはず。奴自身も実体験している。だから、あらゆる世界を統合した結果がどうなるか、分かっているはずなのだ。
「じゃあ、何よ。捜しものは方便で、本当は世界の破壊を願っているってこと?」
「僕もザイの目的がヒロイン捜しで、世界を壊すことではないと思っていた。奴自身、世界をひとつひとつ壊していくのはきりがないと言っていたからな。それを真に受けてしまったのか、僕は」
「落ち着け、少年。そうと決まったわけには……」
「いえ、ザイの狙いは、その両方だと思います。たぶん……」
緊迫した会話にちょっと間の抜けた十七歳声が割り込んできた。
「イルシー、今頃登場か。重役出勤じゃないか」
申し訳ありません、とイルシーにしてはしおらしく言った。
いつもは何かしらのコスプレをしているイルシーだが、ピンクに花柄のワンピースという清純そうな服装をしている。まぁ、これも普段のイルシーから考えれば、ある意味これもコスプレと言えなくはないが……。
「わざわざこうして来たんだから、何か有益な情報があるんだろうな」
「有益がどうかは分かりませんが」
と前置きをして、イルシーは僕の隣に座った。
「で?ザイの目論見って何だ?」
「ザイの目的は、彼の妄想世界が暴走したことにより失ったヒロインを見つけ出すことです。でも、これには明らかに続きがあります」
「続き?」
「そうです。ザイとそのヒロインによる新しい世界を創造することです」
なるほど、それは一理ある。確かにヒロインを見つけてお仕舞いではあるまい。そこから先のストーリーを綴らなければならないのだ。
「そのためには世界を悉く壊しておく必要があります。何故なら、また妄想の暴走によって世界を潰しかねないから、まだ捜しやすいように那由多の世界群を綺麗さっぱりとしておく必要があるんです」
少なくとも彼にとっては、と付け足した。
「滅茶苦茶な理論だな。妄想なんてものは、次から次へと沸いてくるんだろう?仮にここで綺麗さっぱりとしても、あっという間に増えていく。意味がないだろう」
デスターク・エビルフェイズの指摘は尤もだった。
「今のザイにそこまでの思慮はないと思います。増えたのならまた壊せばいい、とでも思っているのでしょう」
「ねえ、あんたさ、どうしてそこまでザイのことが分かるの?」
「そ、それは……」
サリィに問い詰められ、イルシーが言い淀んだ。
「イルシー。僕も疑問に思っていることある。この際だからはっきり言わせてもらうが、お前は何者なんだ?」
「私は那由多会の……」
「そもそも、その那由多会自体が怪しい。これまで会った那由多会のメンバーといえば、お前しかいない。オキナとやらはいるらしいが、僕があったのは偽者だった。仮にオキナが実在するとして、お前を入れて二人だ。どうやって那由多の世界群を管理する?不可能だ。他にメンバーがいるのなら、紹介してみろよ」
僕はイルシーに迫った。彼女にしては珍しく、おどおどと目が泳いでいる。
「シュ、シュンスケ君。乙女の秘密を暴くのは感心しませんね」
「はぐらかすなよ、イルシー。素性が分からない以上、お前の協力を仰ぐことはできない。お前がザイの手先という可能性もあるんだからな」
悲しそうな顔でぐっと歯を食い縛るイルシー。そんな表情されたら言い過ぎたと思ってしまうが、ここで追及の手を緩めるわけにはいかなかった。
「誤解しないでください、シュンスケ君。那由多会もオキナも存在していました」
ただ私は特別なんです、とイルシーは言った。
「特別?」
「はい。私こそがザイが捜し求めている存在、なんです」
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