第252話「それぞれの武器」
マグナムの重い銃声がビルの崩れ落ちる音とともに響き渡る。大口径の弾丸をもろともしない阿用郷の皮膚は先ほどからかすり傷さえも負っていない。
「人間の作った兵器など吾輩には効かん」
「その強さも、ヒトが創造したものデショ? ある意味でソレも武器ネ」
ダブルアクションのリボルバーが忙しく撃鉄を動かしている。再装填しながら瓦礫の間を飛び跳ねて、リリィはせせら笑った。
「リリィ達は所詮、ヒトがいなきゃ生まれてないんダヨ。アナタはアノ身体の大きなマダムをマムだと設定づけられてるダケ」
「貴様ら淫魔は半端者だろう。人間の身体から湧いたうじ虫如きがぬけぬけと」
「Yes. リリィのマムはただのニンゲンだったヨ。それでもちゃんと、リリィはあのヒトの娘として生きてるカラ」
「何が言いたい」
はたと足を止めたリリィにさすまたが迫る。それをダガーナイフで絡め取ったジャスが阿用郷に向かって、小瓶を目いっぱいの力で叩きつけた。粉々になった瓶から甘い香りが漂う。
「シスターはこう言っているのデスよ。ファミリーごっこは目障りだとネ」
「ふんッ!」
「ぐ、ふ……ッ」
さすまたの柄がジャスの脇腹を打ち据えた。ふらついたジャスの後ろから、彼女の姿が消えている。素早く体勢を戻した阿用郷の耳を熱い吐息がくすぐった。
「アナタは戦いたいカラ、あのマダムに従ってるだけデショ?」
同時に反対の耳で鳴り響く爆音。直接差し込まれた銃口が火を噴き、鼓膜を貫いた。野太い雄叫びをあげる鬼から飛びのけてリリィがジャスに駆け寄る。
「ジャス! 大丈夫デシタかー!?」
「ええ……なんとか。アロマのおかげデスね」
阿用郷がさすまたを取り落とす。二人は一旦距離を置きつつナイフと拳銃を向けた。
「なん、だ」
「麻痺の力を持つ香りデス。ワタシ達淫魔は自身のフェロモンの香りでかき消せマスが、貴方にはそれが出来ない」
「こざかしい真似を……。これだから外来種どもは好かん」
「全然悪いコトじゃないヨ。生き抜くタメの手段ダカラ、自分を守るタメの武器ダカラ」
片耳を押さえる指の隙間から血がどくどくと溢れ出す。二人は目配せをし合い、同時に阿用郷へと足を踏み出した。
「淫魔のテクニック!」
「たっぷり味わってクダサイ、フフ……」
阿用郷の拳がきつく握られた。
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