第253話「メイク魔法」

「忌々しいッ、忌々しい……! まずは女から捻り潰してやる」

「ワタシが守り抜きマス」

 ジャスが目元に青くアイシャドウを伸ばした。長いまつ毛がうつむきがちになる。

「シスター、ここはワタシのメイク魔法マジックで戦いマス」

「イヤ、リリィも一緒がいいノ」

All right.大丈夫 貴女の弟を信じて」

 静かにリリィの頬へ口づけをし、阿用郷へ向き直る。さすまたがすぐ目の前まで迫っていた。リリィを抱き込むように踵を返し、後ろ足でさすまたの手元を蹴り上げる。同時に地面へ投げつけた小瓶は爽やかな芳香とともに煙を出し始めた。

「チィッ、煙幕か。だが」

 白煙を割ってわき腹を突こうとしたナイフを手で叩き落とし拳を振り抜く。目の鼻の先でそれを避けたジャスは再び姿をくらませた。

「小賢しい手ではあるが、肉弾戦に持ち込もうというのか。吾輩の得意とするところに踏み込むとは笑止」

「実を言いマスと、鳥籠のおかげでエネルギーを使い果たしているのデスよ」

「己の弱みを自白するなど」

「さて、ブラフかもしれマセンよ?」

 ナイフが八方から飛んでくるのを全て払い落とす。その間にもジャスが大型のダガーナイフを手に次々と襲ってきていた。いくら刃を突き立てても、皮膚が鉄鋼のように跳ね返すばかりだ。

「無意味なことを!」

Really?本当に?

 ぐっとより強い芳香が鼻をかすめる。切っ先が押し込まれた瞬間、右肩に熱が走り激痛が襲った。悲痛な雄叫びをあげる阿用郷へジャスはさらにナイフを深く刺していく。

「何をした……ッ、そんなナイフ一本で……! 吾輩の身体が傷つけられるわけ」

「メイク魔法マジックは本来、自身の強化と敵を弱体化するタメ編み出されたモノ。ご自身の基礎能力に依存した貴方のようなタイプにはよく効くのデスよ……!」

 青い目がギラギラと輝く。そのまま続けて艶色の唇がゆったりと言葉を紡ぎ出した。

「さァ、貴方はワタシの手の中。弄んであげまショウ」

 ナイフの刃と柄を切り離す。新しい鋼に差し替えながら、煙の中を走る。瓦礫の裏で何か仕込んでいるリリィと傷を押さえる阿用郷がくつきりと黒い影として浮かび上がった。青いアイシャドウは透視の魔法なのだ。これは魔女である母から教わった最初のメイクだった。

『愛したいなら、護りなさい』

「Mother.」

 母の言葉を噛み締めた。

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