二人だけの家族

第251話「帰ろう」

 ジャスとリリィが武器を構えて阿用郷を睨みつけている。叫び声が鼓膜を引き裂き辺り一帯に響き渡る中、霧がひかり達の去っていった方へと流れ出す。

「おやおや、フフフ……」

「愛しいヒトを見つけたミタイ。よかったネ──ハルも、ヒカリも」

 金髪を高く一つに束ね、リリィがウインクをしてみせた。さすまたの先が真っ赤に染まり、じっとりとぬめっている。

「確かめたい。各地で吾輩達の隷下をことごとく返り討ちにしたのは貴様らか」

That's right!その通り! 彼らはリリィの下僕タチ、リリィのために頑張ってくれたんデス」

「全国へ部下を回すのは大変デシタ。しかしそちらが戦力を分散させてくれたおかげで、ひかりサンへの攻撃が集中せずに済みマシタが」

 ジャスがナイフを円を描くように突き刺し、アイライナーを取り出した。空に向かってペン先を振りかざすと網がドーム状に広がっていく。

「それはお母様の取り計らいだったのでショウね。ワタシの推測デスが、貴女方が決裂したのは旧都襲撃前なのデハ?」

「その通り。だからこそそれまで各地に散っていた吾輩達、三ツ鬼も戻ってきたというわけだ」

 ゆっくりにじり寄っていく二人の頬を銃弾が数発かすめた。

「リリィを放っておくなんてダメな子タチ! そんなにオシオキが欲しいノ?」

「Sister! 言葉を使ってクダサイ、言葉を」

「異国に染まった音はキライ。ジャスのもリリィのも大キライ、ダカラ出来れば話したくナイノ」

 阿用郷は鈍く光を跳ね返す空の線を仰ぎ見ている。地面へ立てた十字架のようなナイフからアイライナーの線を伝い、結界が上へ伸びていった。それは分厚く巨大な鳥籠だった。

「一つ約束してヨ、ジャス。リリィの愛しい弟」

 真っ直ぐにピストルの銃口を阿用郷に向ける。長い金髪がなびき、瞳が揺らいだ。ふっくらとした唇が細かく震えながら言葉を紡ぎ出す。

「──帰ろう、この戦いが終わったら。一緒に祖国に帰ろうヨ」

「もちろんデス、リリィ。愛する姉よ」

「そう簡単に帰すと思うか。安心しろ、二人同じ墓に入れてやる」

 ジャスとリリィの視線が交差する。阿用郷が牙を僅かに見せて笑うと、二人の表情はより険しくなった。

『帰ろう』

 勇ましい二つの声が重なった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る