第250話「応えて」
「ハル!」
目いっぱい声を張り上げる。翠が真っ白な顔で後ろからついてきた。
「そんなに声出したら妖怪に目つけられるってば! もっとこっそり捜せよバカッ」
「ハル……!」
歯ぎしりをする翠はハッと横を見る。小柄な鬼が高く飛び上がった瞬間、突風がそれを吹き飛ばす。
「霊湯に浸かりまくったおかげで、ウチらも強くなってんだからねー。ふふん、けいちんもファイト!」
「……ああ」
最後に追ってきた奎介が、さらに襲ってくる鬼達を地面に巻き込んで押さえていく。コンクリートだった地面は混ぜ返されてめちゃくちゃになった。
「くそッ、放せ!」
「ああもう、次から次へとしつこいなぁ……! こんにゃろッ」
翠が不意にしゃがみ込む。ギョッと目を見開いたマチネと奎介がそれを挟んで立った時、地面が放射状にヒビ割れた。彼の表情がとろけたようになる。
「手を貸して……みんな」
コンクリートを穿ち木々が勢いよく生えてきた。太い根が自らの意思でうねって辺りの妖怪達を張り倒す。柔らかかった表情が一気に血気迫ったものに変わった。
「いっけええええええ! 皆無敵なんだからね、覚悟しろ脳筋ども」
「ナイスだよ翠ちん、よーしけいちん! やっちゃえー!」
幹や枝の隙間からマチネが正確に突風を飛ばしていく。奎介もビルの残骸を見る間に鋭い針へと形を変えて鬼をピン留めするように絡め取る。
「ちょっと、ぼくの仲間に当てたら殴るからね!」
「心配しないでよ! ただ……あの子が」
ひかりは遠くへと走っていく。翠の出したツタも追いつかず、今にも襲われてしまいそうだ。
「ハル……ッ、ハル、どこ!」
「ちょっと置いてかないで──」
三人は動きを止める。ひかりの周囲に濃い霧が集まり始めていたのだ。それらは渦を巻き、妖怪達を跳ね飛ばしている。
「応えて、ハル」
『ここにいるよ』
包み込むように音が反響して、あっという間に紫色の袴も、艶やかな長い髪も消えていった。ひかりがいた場所には真っ黒な霧の玉が渦巻いて、強い風が全てを跳ね返している。
「情熱的過ぎない!? エネルギーの波長的に害はなさそうだけど……」
マチネの手に収まった小型の機械がカチカチと音を鳴らす。三人はそれを見ているしかなく、翠が眉を下げた。
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