第196話「主張」
「恐らく、初めは秘密裏に計画を終わらせてしまおうと考えていたのでしょう。だからこの国特有の神通力などに影響されにくい、外国の妖怪を用いた」
元の場所に景色が戻り、アマテラスの手は離れていく。ひかりがぼんやりと話を聞いていると、頭を小突かれた。
「考えなさい、本当にあかりやハルを救いたいのなら。噛み砕かれた柔らかな餌しか食べられない雛ではないのだから」
「でも、一体何を?」
「まずは何故あかりがこの計画を、元々の物語に沿った内容に修正したのかについて」
天明伝絵巻物の内容はよく読み聞かされ、説かれてきた。死屍子が大暴れして人の世を狂わせたために、天明の子が封じるというあらすじである。死屍子がハルならば、あの街を覆った黒い霧は偽物になる。そこまでして死屍子の存在を示したのは何故か。
──言うなれば、神の目を欺くのだ。
「死屍子は予定通りに封じられたと、人々や神様方に思わせるため?」
「理由を聞かせなさい」
「同じやり方で死屍子を祠に戻しても、千年後にはまた出てきてしまうんですよね。だったらいっそ、封じなければいいんじゃないか、って」
「では次に、どうしてハルとあなたに接点があると知った途端に予定を変えたのでしょう?」
もう一度先ほどまで見てきた光景を思い返す。ハルが死屍子だとあかりは分かっていた。本人は自覚していないようだが。そんな彼女に対して、あたかも本物はこちらだと言わんばかりに主張する。
「……そっか。ハルに自分が死屍子だと気づいてもらいたくなかったんです。もし自分を知ってしまったら、物語通りに封じるしかなくなりますから」
「よくできました。ならば彼女がハルを人として育てようとしたのも納得がいくでしょう」
「はい。でも、だったらどうして四年前に消えてしまったんですか」
「そこはあかりに予定外の事態が起きたとしか思えませんが……。ですが分かってきたでしょう? 彼女の行動が」
アマテラスが歩き出したのについていき、森を抜ける。風のよく通る草原に立つと心が安らいだ。
「ここまで来れば、あとは未来について予測するのみです。あかりがここからどう動くのか、それを考えなさい」
「頑張ります」
「とはいえ何の助言もないのでは難しいはずです」
手を取られた瞬間、景色がさらに反転して部屋の中になった。目の前には大きな鏡が据え置かれている。
「現世を見てみましょうか」
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