第172話「二匹の鬼」

 ひかり達のいる結界を覆い隠すように巨大な骸骨の霊が現れ、カチカチと骨を鳴らした。それを筆頭に一つ目の唐傘や大蛇など、あらゆる妖怪が湧く。

「ほれ天明の子、早うせんか。狐狸は戦には強くないものでのう」

「ッ、はい!」

 幼い狸と狐はジャス達のもとまで引いてきて、大人が武士に化け斬りかかる。そこへ今現れた妖怪も続いた。数では圧倒的にいろは組が優勢だった。

「うっとおしいんだよ、力なら負けないッ!」

 鬼も負けじと怪力で妖怪を蹴散らし、木の葉や泥へと戻していく。ジャスが一番に飛び出していきナイフを投げた。鬼達が血を流す。

「ナイス、素晴らしいフォームデース。リリィも負けてられないネ」

 クスクスと笑ってスーツの内ポケットへ手を差し入れたリリィに牛鬼が迫る。翠が木の根で転ばせた瞬間、ドッと鈍い音とともに硝煙の匂いが広がった。

「ワンキル」

 動く眉間へ正確な一撃。血を噴いて倒れてきた牛鬼へギョッとした翠の指先にキスをして、拳銃を手の中で回す。

Thank youありがとう、おかげで助かりマシタ! ミドリは本当にジェントルマンデスね」

 優しげに笑いかけながら背後へ続けざまに三発撃つ。重い音を立てて木から落ちた土蜘蛛達の糸を避け、表へ飛び出していった。

「下僕タチ、準備はOK?」

『リリィ様の仰せのままに』

 鬼達のさらに背後からリリィの部下が迫り、挟み撃ちの体制になる。千愛は愉快そうに高らかな笑い声をあげた。

「何じゃあお前さんら、主人のために外で待っておったのか。顔を出せば招いたというのに、健気なものよ」

「皆サン頑張ってクダサーイ! 鬼の首を狩った分だけ、リリィが愛してあげマスよ?」

 太い雄叫びが響く。鬼はすぐに疲弊し数を減らしていった。舌打ちをした鈴鹿御前の肩を矢がかすめる。

「いろは組の本拠地を落としたければ、三ツ鬼の他二匹も揃えて出直すことね」

「むしろ何故、お前さんだけでわれらを負かせると思うたのじゃ。天逆海もとうとうまともな判断ができなくなったかの」

「黙れ……黙れ黙れッ! あんな奴らの手なんて借りなくても、総大将の首くらい……」

 めちゃくちゃに振り回した両手に矢と銃弾が当たり、鈴鹿御前は悲鳴をあげてのこぎりを落とす。玉菜前とリリィが視線を交差させ、すぐに逸らした。

「何なのこいつら、ふざけないでよ」

 金切り声が山々に響き渡る。

「このまま帰ったらあたし、始末されちゃうじゃない!」

『帰るまでもないだろう』

 冷ややかな声と振り下ろされた金棒に、鈴鹿御前は白目を剥き倒れる。その場にいた全員が唖然とした。

「貴様はとっくに捨てられた身だ」

 二匹の鬼が手にした金棒とさすまたが返り血を浴びてぬらりと輝く。リリィの部下達が首を落とされ、死んでいた。

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