第173話「強い女」

「人形相手に手間をかけるとは落ちぶれたな。あの世からもう一度やり直せ」

 リリィが銃弾を詰め直し、狙いを定める。心臓と眉間を狙った銃口が火を噴き一直線に飛んでいった。それを手で掴み取った金棒の鬼は指先でそれを弾き返す。ジャスが結界で守りつつリリィを背後へ隠す。

「シスター、下がって!」

「殺しちゃったんダカラ、せめてキレイに食べてくれるんデショ? そうしなきゃリリィ、許さないカラ」

「貴様に許しを乞う必要はないと判断した」

 さすまたの鬼が次々と妖怪の胸を貫き、元の泥へと戻していく。劣勢だった鬼達の士気に火がついたようで、ニヤニヤと意地の悪い笑みを見せた。

阿用郷あよのさとさん、流石でさァ」

「当たり前だ」

「まさか本当に三ツ鬼揃えてくるとはのう……。阿用郷、茨木や。お前さんらは一体、何に加担しておるのかえ?」

 金棒の鬼──茨木と呼ばれた鬼がひかりとアマテラスの方向を見据えた。

「アマテラスの記憶を持つ人間の企み、その真意が見えてこない。しかし、あの陰陽師が動き出したのならば、よほどの大きな絵図を描いているとみた。俺は見たいのだ、その先を」

「お前さんは流石に、死屍子を殺すなどとは言わないのじゃな」

「それは馬鹿の発想だ」

「そもそも我々は死屍子など眼中にない。総大将殿は違うお考えらしいがな」

 二匹は揃ってくつくつと笑う。そんな阿用郷と茨木の前にリリィが歩み出た。カチリと照準器が喉へ向く。

「リリィの話を聞いてくれないオトコはキライ」

「ふむ……貴様は美しい顔立ちをしているな。俺は言い寄る女は嫌いだが、殺意を向けるものは好きだ」

 茨木の手が銃へ伸び、瞬く間に握り潰された。その瞬間に隠し持っていた.357マグナムが脇腹に当てられ炸裂する。

「──なッ!?」

「その程度の火力で俺の皮膚は貫けない」

「い、たい……ッ」

 手首をひねり上げられると足が地面を離れ、リリィが顔を歪めた。顔を近づけた茨木がすんと鼻を動かす。

「リリィとか言ったな。何故、髪を染めている? 薬品臭いのは気に食わない」

「アナタに関係ないデショ……!」

「シスターを離せッ!」

 ジャスが顔面へ向かって足を振り抜いたのをかわし、リリィを手放す。翠の生やした草木が受け止めると茨木は肩を回した。

「今はこんなことをしている場合ではなかったな」

 二匹の視線が再びひかりへ向けられた。

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