第109話「守りたいもの達」
とても弱々しいがわずかに光の力を感じる。ハルとしてはあまり心地よくはないが、社地はそれを大切に胸へ抱いた。
「わ、わたしは半人前なので、そんな弱い御札しか作れませんが」
「いいえ、これくらいがわたくしどもにはよいのでございます。ああ、わたくしの求めていたものだ……」
ひかりはきょとんとしている。精神世界にいる間、話は聞いていなかったのだろう。ハルはなんだか気が抜けて、ひかりを放した。
「やれやれ。どいつもこいつも、持ってないものが多過ぎるよ」
アマテラスの記憶や社地の自我、自分にはどちらもない。あかりは一族の呪縛を持っていない。今回はおかしな点がやけにあった。
「ひかりがそういう力を使ってるの、初めて見たよ」
「結界さえまともにできないので、使い道がないですから。言ったでしょう、憑依されるくらいしか能がないって」
「いや、ひかりはすごい」
ハルはフードを深く被る。ひかりが怪訝な顔をするが気にせず、感慨に浸っている社地を横目で見た。
「私はせいぜい何か言ってやるしかない。でもひかりはこの人の望むものをあげられた、アンタにしかできない力でね」
「わたしの、力?」
「ああ、ひかりは特別なのが嫌かもしれないけど、それを持ってるのは誇ってもいいんじゃないかと思う。でもそれのせいで大変なことになってるわけだし、やっぱりあれなのかな」
一人で唸っていると、ひかりがふと微笑んだ。口元を両手で隠してくすくすとし、穏やかに目を細める。
「前に普通の暮らしがしたいって言ったの、覚えてますか」
「もちろん」
「あれは変わりません。妖怪だって嫌いですし、誰かを傷つけるのだって許せない。──だけどね、ハルの何かを大切に思う気持ちならとっても共感できます」
ひかりは幼い頃亡くなった父や突然いなくなった母の代わりに自身を育ててくれた、祖父母の顔を思い出す。実家もこことよく似た平屋造りだった。高校の友人や近所の人々を頭に浮かべ、大切な日々だったと噛み締める。
「わたしはあの日々に帰りたいです。できるならそこに、お母さんやあなた方仲間もいてくれたら、幸せなのに」
「わがままめ」
いつ死ぬかも分からない毎日の中で、ひかりは明るい未来だけを真っ直ぐに見続けていたのだった。それを濁すことはハルにはできない。ならばその盲目さを貫いてやるため、見えないところで手を汚すしかないのだ。つい数日前に固めた意志をこうも早く覆すのは思いもよらなかった。
「分かったよ。どうしても怪我はさせるけど、もう誰も殺さない。仲間も殺させないよう全力で守る」
「本当ですか!? ふふ、約束ですよ」
「うん」
触れられない首輪が増えていき、きりきりと喉を絞めた。指切りを交わしながら、ハルは努めて笑い続けた。
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