第63話「方針」

 ジャスが帰ってきてようやく、ハルは天明都で得た情報をひかりにも打ち明けた。正体不明のアマテラスや死屍子の特徴について語り、彼の意見がまとまるのを待つ。

「あの、ハル」

 ひかりがおずおずと手を挙げた。

「母のことは、何も?」

「……うん、ごめんな」

「そうですか」

 明らかにしゅんとしたひかりにハルは頭をかく。ジャスが一つ咳払いをして、アマテラスを呼び出してほしいと告げた。ひかりの表情が固まるが、次の瞬間にそれはむすっとした顔に変わる。

「……なんですか」

「お久しぶりデスね、元気にしてマシタ?」

「用件を話しなさい」

 ジャスはため息をついて首を振った。

「貴女はご自身の逸話ナドは、一切ご存知ないんデスか。調べてみたコトは?」

「ありません。他の神々からある程度、仕事を教えられた程度です」

「ふむ……ひかりサンは知っているんデスかね。眷属の一族なのデスから、教えられていそうなものデスが」

「それを知るには夜まで待つしかないな」

「今は別の話をしまショウか。次の質問デスが、マチネサンの話に出てきた弟君と面識は?」

「……ないです。昔は高天原にも来ていたそうですが、わたしが会った記憶は少なくともないです。素行の荒い弟とは聞いています」

須佐之男命すさのおのみことって最古の利かん坊なんだってねー。ウチ少しは神話知ってるけど、本当に面白いよー」

「へえ」

「高天原に別れの挨拶をしに来たら、高天原を侵略しようと考えてるんじゃないかって疑われたり」

「うッ」

「泣かせたお姉ちゃんが岩の裏から出てこなくなって、世界が真っ暗闇になったり!」

「ゔッ」

 マチネが語るにつれてひかり、もといアマテラスの口から呻きが漏れる。

「わたし自身の記憶ではありませんが、なんだか恥ずかしいのでやめてもらえませんか。せめて夜に、わたしがいない時に話してください」

「はは、分かったよ」

「ではアマテラス、最後に確認させてクダサイ。貴女は「本物の」アマテラスではないんデスね」

「──おそらくは」

「それならばワタシ達の取るべき方針はまず、アマテラスについて調べることでは? 死屍子も大切デスけど、貴女達の母上を見つけるためには必要カト」

「そうかもな。うん、私はうまく考えられないから、ジャスの意見に乗るよ。身体は動かせるしな」

「分かりました。ひかりを捜すためなら、協力しましょう」

 三人が頷き合う中で、マチネだけがキョトンとしていた。

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