第52話「怒り」

「ちょっと君達! ウチらだよ、分からないの!?」

「言葉では無理だよマチネ君。彼らは妖怪に操られているんだ」

 泣き出しそうなマチネをなだめるように、誠の口調は穏やかだった。ハルは瞬時に学生の背後へ間合いを詰めて、首を絞め意識を落とす。そして奪い取った銃を誠へ投げた。

「護身用に持っておけ」

「僕に生徒達を撃てと言うのかな、酷な話だね」

「死にたいなら勝手にしてくれ……と言いたいところだが、まだ報酬を貰ってないぞ。それを渡してから殺されろ」

 やれやれ、と誠がため息をつく間にも、学生を次々と叩きつけ気絶させ、できるだけ怪我をさせないように大地へ沈めていった。

「あとどれだけだ……うぐッ!」

 巨人の手に掴まれたと思った。肺が圧迫されて呼吸がままならない。喉が酸素を求めてひゅうひゅうと喘いだ。地面が急に盛り上がり、ハルの両腕と胴体を押さえ込んだのだった。

「かッ、は……」

「けいちん、その子を放して。アマテラス様の使いの子だよ、ウチらの希望なんだよ!?」

 相棒に必死に声をかけるマチネだが、他の学生が持つ銃がカチリと音を立てたのに気づいて固まった。大男はマチネを掴んで放り投げ、頭を打ちつけた彼女はそのまま気を失ってしまった。

「マ……チネ、を……お前ェ……!」

 はにかみながら彼を相棒と呼んだマチネのことを思い出し、激しい憎悪が身を包んだ。どす黒い何かに巻き込まれるのを感じ、それが力に変わるのが分かった。誠はハルを見て目を丸くする。

「君、形態変化をするのか……?」

「お前の仲間だろ、大切なものだろ……!」

 分厚い土の壁を吹き飛ばし、男に飛びかかった。顔面を拳で何度も殴りつける。両足で肩を押さえ、頭を掴んで力を込めた。

「その頭、身体から引き抜いてやる!」

「待ちたまえ! ──ハル君。すまない」

 大男の首元をかすめた弾丸がハルの手首を吹き飛ばし、空へ飛んでいった。半分が抉れなくなった左手首は力を失い頭を放し、ハルは数メートル飛びのいた。大男を挟んで立った誠とハルが向かい合う。

「投げ飛ばされたことよりも、彼が亡くなることをマチネ君は嘆くだろう。少し落ち着いてはくれないか」

「そう、だな。ごめん」

「う……うぅん……」

 マチネが身体を起こし、どこか異常がないか確認していた。二人の意識がそちらへ向いた瞬間、大男は動いていた。

「なッ」

 足を地面へ引きずり込まれた誠が尻もちをつき、その背後から針のようになった岩が突き出した。それは頭蓋骨を砕いて、額から飛び出る。

「え、センセ……?」

 マチネの目から涙が溢れ出し、刹那、肌を焼くような熱風が辺りを吹き散らした。

「許さない……奎介ッ!」

 マチネの相棒、奎介に表情はなかった。

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