第30話「主従だからこそ」
刻々と進んでいく時計を眺めながら、ハルは机を指で叩いた。疲れていたのだろうか、ひかりが目を覚まさないのだ。リビングで寝かせているがそろそろ日付をまたぐ時間だ。風呂から戻ってきたジャスと顔を見合わせてから、ソファのひかりを見つめた。
「今晩中に起きると思うか?」
「難しいでショウね、ベッドルームへ運びマスか」
「私がやる」
むんと前に出てきたハルにジャスがわずかに笑みをこぼす。それを睨みつつひかりを持ち上げたハルはあれ、と声を出した。
「何か……変だぞ」
「そうデスか? どこも異常はないように見えマスが」
「見た目はな。でもなんというか、ここにある身体じゃなくて目に見えない『中身』が軽くなったみたいな……。どう説明したもんかな」
「……夢の質量が減っていマス」
ひかりの頬に触れて、ジャスが眉をひそめた。夢魔であるジャスに説明させると、精神的な部分が誰かに削り取られているらしい。
「これはおそらくバクの仕業でショウ、ワタシ達以外にも外国の妖怪が彼女に関わっていたトハ。それにしてもよく気づきマシタね貴女、夢の妖怪ではないというノニ」
「ひかりを抱いた時、首輪が少し引っ張られた気がしたんだ。その直後にフッと軽くなった気がして……」
「その首輪は不思議な力があるそうデスね、それならば不思議ではありマセン。主従の間柄であるために、精神もどこかしら繋がっているのでショウ」
「夢はアンタの守備範囲だろ、どうすればいい。私は指示に従うよ」
「では一旦、ベッドルームへ」
二階の部屋に入ってひかりを寝かせるとジャスはどこかへ電話したようだった。ハルが漏れ聞こえる会話から察したのは、相手がリリィであることだ。夢魔が揃って何をしようというのか、ハルは考えを巡らせる。しかしいくら考えても分からないのだった。
不意に隣の家からこちらを覗く影が見えた。それは屈強な男の姿をしており、すうっと壁をすり抜けてこちらへ渡ってきた。空中を歩くのだから、ただ者ではない。
「彼はワタシ達の仲間デス、少しタイプは違いますケド。この国の言葉は話せマセンから、貴女と意思疎通はできないでショウ」
「そうか。この人を連れてきてどうしようって?」
ジャスと男がひかりの眠るベッドを挟むように立ち、二匹で手を合わせて何か形を作った。ハルがそれを覗き込んで首を傾げる。
「なんだ? その枠みたいな」
「夢魔は夢に入り込む妖怪デスから、こちらと精神世界を繋ぐ力があるのデス。しかし他の者を入れるには一人では力不足なノデ、助っ人を呼んだのデスよ」
「もしかして」
『淫魔が二匹手を取り合えば、夢の世界の戸は開く』
覗き込んでいた指の枠に引っ張り込まれるように、ハルの身体が傾き、消えた。
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