第28話「夢に憑き」
「……おや、顔色が優れマセンがどうしたんデス? 枕が合わなかったんでショウか」
「そんなことは。揺すっても全く起きなかったんですよ、こんな時に眠りこけるとは本当に腹立たしいことです」
「普段はすぐ起きるはずなんだが……光の森に長い時間いたから、疲れてたんだと思う。思えばあれから寝てなかったしな」
ミートソースのパスタを頬張りながら、ハルが皮肉じみた口調で返した。隣のアマテラスに睨まれてサッと視線を逸らすと、ジャスが食卓の向こう側から笑いかける。
「貴女は夢を見マスか」
「うん? そりゃもちろん、まあ私自身あんまり寝ないから見ることも少ないけど」
「ワタシやシスターのように、夢に取り憑いて力を奪う妖怪もいるのデスよ。フフフ、貴女の夢を覗いてみたいものデスね」
「やめてくれ」
苦笑いしながらソースを集めてパスタに絡めていると、ふと今日はあの夢を見ていないことを思い出した。疲れている時にはいつも現れるはずなのだが。
「夢に取り憑くワタシ達は他人の精神へ過干渉してしまうこともあるんデスよ。夢とは人の一番無防備なトコロであり攻撃しやすい部分ではありマスが、取り憑く側のダメージも大きくなる場合があるのデス」
「妖怪も精神を病むことが?」
「もちろんデス。ワタシ達だって植物や機械ではありマセン、血も涙もありマスよ」
ハルは一瞬、身近にそんな妖怪がいたのかと聞いてみたくなったが堪えた。もし自分の能力で心を深く傷つけた妖怪がいるなら、それは滑稽で悲しいことだ。親族の誰かがそうなのかもしれない。
「心を悪くした夢魔に対して、感情を高ぶらせることを言ってはいけマセンよ。自身とその夢魔の精神がリンクしてしまって、精神を蝕まれて死にマス」
「怖いこと言わないでください」
「アンタ思ったより臆病だよなぁ、いてッ」
手の甲をつねられてハルが短く声をあげる。
「大丈夫だよ、ちゃんと守ってみせるからさ。私は結構、妖怪の中じゃ強い方なんじゃないかって最近思ってるんだ」
「口元にソースをべったりとつけている子供のような妖怪に、守ってもらう義理はありません。ひかりの護衛だけで結構です」
「うん? おお、本当だ」
ぐいと口元を拭ったハルはニッと笑いかけた。
「へへ、ごちそうさま」
ミートソースパスタは見事になくなっていた。
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