第27話「見抜く」
「何、どういうことだ? ここはどこなんだ」
『ハルの夢の中ですよ、夢というより意識の中と言った方が正しいわね。あなたがわたしを捜していると聞いたものだから、こうして夢に会いに来たの』
夢の中に入り込むなど、巫女であれただの人間であるはずの彼女に可能なものか。ハルは混乱してきた思考回路を必死に修正し、冷静に分析しようとした。しかし考えるほどに目の前の存在が分からなくなる。
「……アンタ今どこにいるんだ、迎えに行くよ」
『わたしとあなたは会うべきじゃないわ。だって巫女と妖怪だもの、よく考えれば当然でしょう? それにわたしは死屍子を封じるつもりなんてないのよ』
「どうしてだ」
『わたしに得がないじゃない。常に妖怪から命を狙われて、死に物狂いで死屍子を祠へ閉じ込めても、人々はすぐに感謝を忘れてわたしを異物扱いする。排斥されるのは嫌よ』
「だから娘のひかりに責任押しつけて、一族を抜け出したって? 私を拾ったのは罪滅ぼしか何かか。冗談じゃないね」
ハルはせせら笑った。このあかりは妖怪の誰かが生み出した幻想だろうと感じたのだ。彼女は全性愛者だった、人間も妖怪もまとめて全てを愛している人だったのだ。
「私の母さんはそうやすやすと何かから逃げる人じゃない。正体は知らないがニセモノってことはバレてる、化けの皮を脱ぎなよ」
『何をおかしなことを。わたしは正真正銘、あなたを慈しみ育ててきた
爪を振りかざすと首はすっぱりと切れて、べちゃりとゴツンという二つの音がした。夢の中だから感触はないが、目の前の血だまりはくっきりと脳裏へ焼きつく。すると足元へ転がった頭が舌打ちをした。
『精神力の強い奴だこと、まったくめんどくさい』
「やれやれ、ジャスの結界は頼りにならないってわけか。これじゃロクに眠れもしない」
『あたしはこの家に入る前から侵入してたのさ、お前の中に紛れれば結界は簡単に抜けられたよ。アマテラスには取り憑けないからお前にしたが、失敗だった』
あかりの首だったものはどろりと形を変え、人の姿ではない泥のようなものへ変わった。そこから現れた二つの目だけがこちらを見ている。
『言っておくけどね、お前にはあたしの本体を殺せないよ。お前の精神が強ければ強いだけ、あたしから遠ざかっていく』
「よく分からないな」
どういうことだと訊き返す前にその妖怪の姿は消えた。同時にハルの視界もぐらりと歪む。夢はもう終わりのようだった。
「うーん……何?」
「夕食だそうです。随分とよく眠っていたようですね、警戒心をもっと強く持ちなさい」
アマテラスに揺さぶられて目を覚ますと、鼻先へミートソースの香りが抜けた。二階まで漂う美味しそうなそれに引き寄せられ、ハルは立ち上がる。
「なんか夢を見てた気がするんだけど……何だったかな」
軽く首を回して下へ向かっていった。
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