第8話「つい出来心で」
この風は太陽の力を含んでいないと気づいて、ハルはアマテラスから視線を逸らした。気まずい空気が流れる中、向こうに見える普通の森を目にした瞬間、ハルはぼそりと呟いた。
「やっと制限がなくなるんだな」
「ここからは荷物を運ぶのも楽になるでしょう。日が暮れる前に街へ出たいのです、ペースを上げなさい」
「はいはい」
外へ抜けた瞬間、一気に身体が軽くなる。荷物などないかのように楽になって、ハルはぽんと木の上へ飛び乗った。地面をひと蹴りするだけで枝に飛び移れる。
「はは、やっぱりこうでなきゃな」
「先を急ぐと言ったでしょう、降りなさい」
「ちょっと遊んだだけだよ」
眩しいところから抜けてしばらくチカチカとしていた視界も元に戻り、薄暗い森の中を進む。ハルはアマテラスからわずかに光が出ていることに気づいた。薄い膜に覆われるように身体が輝いているのだ。
「アンタ、光ってるな」
「わたしは光の神ですから、常に光をまとっているのです。妖怪相手でも特に害はありません」
「ならいいけど」
二人並んでゆっくりと歩みを進める。しかしハルはこの遅さにじれったくなってきていた。重たい制限から解放されたのだ、思いっきり大地を蹴って猛然と走りたかった。
「なあ、このままじゃ日暮れまでに街に着かないんじゃないか」
「確かにそうかもしれません。しかし歩くしかないでしょう、何か文句が?」
「いいや、別に文句はないけど一つ提案があってな。とりあえずアンタのこと抱いていいか」
「抱く、ってどういう……きゃっ⁉︎」
うろたえたアマテラスの隙をついて、脇の下と太ももの裏へ手を差し込んだハルは軽々と抱き上げ、強く地面を蹴りつけた。一気に速度が上がって耳元を風の音が抜けていく。ハルがにたりと意地悪な笑みを浮かべた。
「案外かわいい声を出すじゃないか」
「くっ……黙りなさい。そんなに罰が欲しいのですか」
「そういえば私首輪されてるんだったな、怖い怖い」
木の間を縫うようにハルは軽やかな動きを見せる。まだ人の姿だというのに、とてつもない力を秘めていたようだ。矢のように駆けていくハルは声を立てて笑った。
「やっぱり動いてるのは楽しくていいものだ」
「分かりましたから、少し速度を落としなさい! 聞いてるのですかハル!」
ぐんぐんとスピードを上げていくとアマテラスの顔が引きつった。どこかへぶつけないよう大切に抱えながら疾走していると、フッとひらけた場所へ出た。街へ続く道路らしい。木々の屋根がなくなり空が青々と見えた瞬間、ハルは思いっきり力を込めて地面を踏み飛び上がった。
「きゃあああああッ!」
同時に鋭い打撃音が空中へ鳴り響いた。
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