第6話「主従契約」

「利害の一致って、アンタよく考えてみなよ。私は一緒にいたくて母さんを捜してるんだ、アンタは妖怪を封じるために母さんを捜してる。一緒に捜して見つかったとしたら、私はアンタに消される」

「絵巻物を読んだことがないならそういう解釈になるのも仕方ないと思いますが、このわたしでも流石に日本全土の妖怪全ては封じられませんよ」

 アマテラスがゆるゆると首を振り、指をピンと立ててみせた。

「わたしの神降ろしは妖怪の力を増幅させる能力を持つ『死屍子』を封じ、妖怪勢力の拡大を防ぐのが目的です。要はあなたなど眼中にありません」

「手を借りるつもりでよく、そんな失礼なことが言えるな」

「神が妖怪に媚びて何になるのです」

 平然と言い放ったアマテラスに眉をひそめながら、ハルは身体の力を抜いた。

「それはそうだけど……。ああもう、分かったよ」

「本当ですか」

「嘘は言わない。けど……アマテラスの妖怪狩り。まさかそれを妖怪が手伝わされるなんてな」

 頭を抱えたハルは鼻先に何かいい香りがかすめたのに気づいて顔を上げる。同時にあごをぐいと持ち上げられたと思うと、柔らかな感覚が喉に触れた。その直後に走る微かな痛み。金属音のようなものが響いて我に返り、喉に口づけされ噛まれたのだと気づく。

「テメー、いきなり!」

「そう焦ることでもないでしょう。ただ主従契約を結んだだけですよ。これであなたはわたしの奴婢ぬひ、もう逆らえません」

「何?」

 両手足の鎖が外れて、首筋へ手を当てると堅い感触がある。それが首輪だと気づくのに数秒とかからなかった。

「犬扱いか私は」

「これはわたし、というよりひかりの身を守るための処置です。日のある間だけわたしは憑依できますが、夜になると強制的に神降ろしを解かれるのですよ。夜の間の意識はただの少女……あなたが襲えば簡単に殺せてしまいます」

「へえ? じゃあこれをつけることで何が変わるんだ」

「それは自分の身で確かめなさい。一度味わえばもう二度と逆らう気は起きないでしょうが」

 冷たい視線にゾッとしたハルは身震いする。立ち上がって伸びをすると身体の傷はほとんど癒えていた。庭に降りて空を見上げると夜明けらしい。まだ薄暗い空とまばゆい森の様子がおかしかった。

「ハル。すぐ支度をしてここを出ます、そのボロボロの服ではわたしの隣を歩くことは許しませんよ。こちらへ来て替えを」

「……はいはい、分かったよ。アマテラス様」

 歳や雰囲気は違くても、違うと分かっていても、あかりが帰ってきたように思えて愛おしかった。

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