第5章エピローグ
元の世界にタクミを返した後のティアナとアルマは、いよいよ精霊の庭でやることがなくなった。ティアナの願いはここでは叶わないので近いうちに旅立たないといけない。
ただ、タクミが去って再び二人になったせいか、どちらも気が抜けていた。
木陰で二人揃って座り、何をするわけでもなく目の前の景色を眺めている。
生あくびをしたティアナがぽつりとつぶやいた。
「あ~、また二人に戻ったなぁ」
「本当に。そういえば、旅のほとんどを一緒に過ごしていたのよねぇ」
祖国を出て最初の国で出会ったことをティアナは思い出す。あれから半年以上も一緒に旅をしていたことに気付いた。
この二人という形がティアナとアルマにとっては本来当たり前だったのだが、今では何か胸の内にぽっかりと穴が開いたような感覚がある。
またしばらく会話が途切れていたが、不意に何かを思い出したアルマが声をかけた。
「そうだ。タクミの持って来た荷物はどうするのよ? あの子たくさん担いでいたから、あたし達じゃ持ちきれないわよ?」
「しまった忘れてた」
指摘されたティアナが渋い顔をした。精霊の庭がどこかの街なら馬車を借りることもできるが、もちろんそんなことはできない。
一瞬、ティアナはクストスという竜を思い浮かべたが、既に自分の巣に戻っている。頼みに行っても断られることは目に見えていたので、この案は早々に諦めた。
立ち上がって背伸びをするとティアナはもうひとつの案を口にした。
「ウィンにゲトライデンまで運んでもらおうか? 今ならもう自分だけでも帰れるだろ」
「悪くない案ね。タクミが帰って以来見かけてないのが問題だけど」
故郷に帰ってきて、友人を元の世界に帰したウィンはもう自由の身だ。クストスが立ち去るときにウィンもどこかへ去っていた。それ以来ティアナとアルマはウィンと会っていない。
「まぁ、会えたら頼もうかな」
「結局荷物はどうするのよ?」
「荷物も大切なんだけどな、俺達がどうやってこの山脈から出ればいいのかって考えるのが先立って今気付いたぞ」
「あらいやだ、そうじゃない! ウィンなしで山脈の中なんて歩けないわよ?」
都合十日間も竜牙山脈を進んでいたわけだが、その間にティアナ達は様々な獣や魔物に襲われていた。このままだと自力で対処しなければならない。
「ウィンがいなくなったから俺は魔法を使えないし、アルマはタクミのように身体能力が高いわけでもない。こりゃ詰んだな」
「あの水晶も壊れちゃったもんねぇ」
「魔法を使えなきゃ、あれがあっても意味ないけどな」
苦笑いしながらティアナは腕組みをした。壊れたことは残念に思えても、素のティアナでは使い道がないのも確かだ。
二人が今後のことを考えているとリンニーがやって来た。満面の笑みを浮かべて手を振っている。
「こんにちは~! やっと穴が埋まったよ~!」
「そりゃ良かった! となると、これで芋虫の駆除は完全に終わったわけだな!」
「やり残したことは、これで完全になくなったわね」
手を振り替えしたティアナに続いて、アルマも立ち上がって小さく手を振る。
「御神木に取り付いていた芋虫は、これできれいさっぱりいなくなりました~! エステも喜んでるわよ~!」
「囓られたところはもう治ったのか?」
「まだなの~! でも、もう食べられることはないから、後は治るのを待つだけだって言ってたわよ~!」
「魔法ですぐに治せるわけじゃないのか。意外に自然治癒に頼ってるんだな」
てっきり御神木はきれいに完治していると思っていたティアナは、意外なことを聞いて驚いた。植物を司っているだけに自然治癒派なのだろうかという疑問が脳裏によぎる。
「御神木を治すのは大変なのよ~。この前タクミを元の世界に戻すのに、たくさん魔力を使ったからね~」
「それを言われると、こっちは何も言い返せないわね」
「いいのよ、アルマ~。あとは回復するのを待てばいいだけなんだもん~」
「ありがと、気が楽になったわ。ところで、今日もおしゃべりしに来たの?」
「違うよ~。御神木にまで来てほしいの~。今ウィンがエステとお話してるのよね~」
「今日はみんなでおしゃべりするの? 長くなるなら、食べ物と水を持っていった方がいいわね」
「みんなでお話するんだけど、今日はウィンがティアナに用がある見たいだよ~」
のんびりとした声で伝えられた用件を聞いて、ティアナとアルマは顔を見合わせた。
ウィンに指名されたティアナが口を開く。
「ウィンが俺に用? 何か忘れてたことってあったっけ?」
「わたしにはわからないわね~。単に連れてきてほしいって頼まれただけだもん~」
首をかしげたリンニーの答えにティアナは眉をひそめた。
ただ、ティアナ側がウィンに用事があるので会えるのは好都合だ。アルマと視線を合わせてうなずくと返事をする。
「わかった。それじゃそっちに行こうか」
「待って。食べ物と水を持って行きましょ。ほら、あんたも自分の分を持って行く!」
「え? ああ、うん」
袖を引っ張られたティアナは回れ右をして自分の荷物を漁る。水袋と干し肉を取り出すとリンニーに近づいた。
こうしてティアナとアルマは、リンニーを先頭に御神木へと向かった。
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首をひねりつつティアナ達が御神木にたどり着くと、ウィンとエステが木陰にいた。リンニーが声をかけるとエステが手を振り、ウィンが羽をばたつかせる。
「あら、早かったわね。てっきり話し込むと思ってたのに」
「今回はウィンのお使いだったから、少しだけで我慢したんだよ~」
女神二人が楽しそうに挨拶を交わす。その横からウィンがティアナに近づいてきた。
「いたいたー! やっと会えたよー!」
「お前が勝手にあっちこっち行ってるだけじゃないか。俺はじっとしてたぞ」
「細かいことはいいんだよー! それよりね、今日はティアナに僕の仲間と会ってもらおうと思ってるんだ!」
「仲間?」
怪訝な表情をしてティアナは首をかしげる。もちろんティアナは知らない。
「そう! 精霊界から連れてきたんだ!」
「何だってそんなことを」
「みんな出てきてー!」
ティアナの言葉を無視してウィンが叫ぶと、竜巻、火柱、水玉、土人形が現れる。すべて半透明でティアナの半分くらいの背丈だ。
得意気にウィンが説明を始める。
「この子達はね、竜巻がウェントス、火柱がイグニス、水玉がアクア、土の人形がテッラだよ! ボクの代わりにティアナのお供をしてくれるようにお願いしたんだ!」
「どうしてまたそんなことを?」
「だってティアナ、ボクがいないと何もできないじゃない!」
「なんだと!?」
まさかウィンに頼りないなどと言われるとは思っていなかったティアナは目を見開いた。しかし、実際ほぼその通りなのでティアナは言葉に詰まってしまう。
アルマが隣で笑いをこらえるのを無視して、ティアナはかろうじて反論した。
「宝石の中に閉じ込められてた奴の言葉とは思えないな!」
「うっ!? あれはしょうがないだもん! ボクを騙した人間が悪いんだ!」
「喧嘩しないの! 話が進まないでしょうに」
呆れたエステが間に入って仲裁する。我に返ってティアナとウィンが周囲を見ると、アルマとリンニーが吹き出した。
若干居心地が悪くなった両者は決まり悪そうに向き直った。
「えっと、どこまで話したっけ?」
「名前を紹介してくれたところだな。竜巻がウェントス、火柱がイグニス、水玉がアクア、土の人形がテッラだろ?」
「そうそう! これからはこの子達と一緒に旅をするといいよ!」
「この四人? いや人間じゃないよな。四体? 四つ? は故郷を離れても良いのか?」
「みんな外の世界を見たいって言ってる子ばかりだよ。今回初めて精霊界から出てきたばかりなんだ」
「承知の上ならいいけど、途中で死ぬかもしれないぞ? お前だって宝石に封じ込められたくらいなんだから」
「うっ、それはもういいの! それに、この子達は簡単にやられないよ! ボクが外に出ても大丈夫だって判断したんだから!」
鼻息荒く胸を張るウィンだったが、旅の記憶を思い返したティアナとしては不安が残る。ちらりとアルマの様子を窺うと微妙な表情をしていた。
せっかくの好意なので受け取るつもりでいたティアナだったが、ひとつ重要なことに気付いた。
「ウィン、この四体とはどうやって会話をすればいいんだ? 俺、お前以外だと憑依させなきゃ話ができないんだが」
「離れててもティアナの言葉はわかるよ。この子達の言葉は憑依しないとわからないけど」
説明だけでは今ひとつぼんやりとしていたので、ティアナは実際に試してみた。
「ウェントス、イグニス、アクア、テッラ、ティアナだよろしく」
声をかけてみると、ウェントス、イグニス、アクアは体を揺らし、テッラは右手を振った。確かに言葉は通じているらしい。
ここまで試してティアナは過去にやったことを思い出す。
「誰か一体だけ憑依させたら、別の三体と離れてても会話ってできないか? 芋虫退治のときに、離れた精霊が見えてるものを同じやり方で見てたんだけど」
「そんなことできるんだ。ボク達の会話のやり方を真似るんだね。それなら話せるんじゃないかな」
「よし、それじゃやってみようか」
ウェントスに近づいたティアナは、旋毛風の存在する場所に手を触れると憑依させる。その瞬間、旋毛風が消えた。
「ウェントス、憑依できた?」
『デキタ。てぃあなト一緒』
「これで俺が他の三体とも話せるかな?」
『デキルヨ』
「イグニス、ウィンがみんな外の世界を見たいって言ってたけど、本当なのか?」
『本当ダ。見テミタイ。何ガアルノカ楽シミ』
「アクアは何が見てみたいんだ?」
『塩ノ混ジッタ水ガタクサンアル場所ヲ見タイデス』
「テッラはどこか行きたい場所はある?」
『ワカラナイ。デモ、イロンナトコロノ土ヤ岩ヲ見タイ』
かつて丸い精霊達と何度か話をしたことをティアナは思い出す。ウィンが紹介してくれた四体はより意識が明確にあるらしく、受け答えもはっきりとしていた。
憑依させていたウェントスを開放するとティアナはウィンへと顔を向けた。
「これ全員連れて行っていいわけか?」
「そうだよ! ちょっとちっちゃいけど、みんな優秀だからね! きっと大活躍してくれるよ!」
「そうか。ありがとう」
「ボクを助けてくれたお礼だよ! しばらく精霊界に戻るつもりだから、これでお別れだしね」
そこでティアナとアルマはウィンとも別れることを実感した。時間の感覚が人間とは異なるはずなので、タクミと同じくもう会えないかもしれないことに気付いたのだ。
何か言い返そうとして言葉が出てこなかったティアナに代わって、アルマが話しかける。
「久しぶりにお家へ戻ったんだから、そりゃゆっくりとしたいわよね」
「そうそう! 飽きたらまたこっちに来るから!」
「好きにしたら良いとは思うけど、また捕まっちゃ駄目よ?」
「つ、捕まらないもん! 今度はちゃんと逃げるもんね!」
羽をばたつかせて暴れるウィンをアルマは苦笑いしながら見つめた。
そんなティアナ達を眺めていたリンニーが話しかけてくる。
「ねぇ、今度はわたしの話も聞いて~」
「話? リンニーも何かあるのか?」
「あのね、わたしも久しぶりに外の世界を見たいから、ティアナについて行こうかな~って思ってるの~」
楽しそうに告げたリンニーから視線をアルマへと向けると、もちろん驚いていた。転じてエステへと目を向けるとやはり目を見開いている。
そんな周囲の驚きなどお構いなしにリンニーはティアナにせがむ。
「ウィンと一緒に旅をしてたんなら、わたしと一緒に旅をしてもいいわよね~?」
「そりゃ良いか悪いかって言われたら、悪くはないけど」
「本当!? やったぁ~!」
「ちょっと待ちなさい! 何勝手に話を進めてるのよ!」
「いや別に進めてるわけじゃなくて、こっちは単に受け答えをしてるだけ」
「ティアナは黙ってて!」
一喝されたティアナが口を閉じた。
眉間に皺を寄せてあたし怒ってるんだからねという表情でエステがリンニーへと近づく。目をぱちくりとさせたリンニーの前で止まった。
「あのね、ウィンクルムでさえ人間に捕まってひどい目に遭ったのに、あんたが捕まったらもっとひどいことされるのがわからないの?」
「だからティアナ達と一緒に行くんじゃないのよぅ」
「ティアナ達は信頼できても、あんたを守り切れるとは限らないのよ?」
「でも、ウィンクルムのお友達もいるよ~?」
「ウィンクルムとは別の意味で抜けてるあんたは危なっかしいじゃない!」
「あれ? ボク、バカにされてる?」
話を聞いていたウィンが首をかしげた。しかし、そんなことはお構いなしにエステは話し続ける。
「かつて一緒に外の世界に出かけたとき、あたしの言うことなんて全然聞かずに、あっちこっちにふらふらって動き回ってたじゃないの! 忘れたなんて言わせないわよ!?」
「だって珍しかったんだもん」
涙を浮かべたリンニーが小さい子並の言い訳を弱々しく返した。もちろん、そんなことでエステは納得しない。
「あのときどれだけ苦労したことか。あんたみたいに美人だと余計に雄が群がってくるんだから。追い払うのも大変なのよ?」
「でも、それってわたしのせいじゃないでしょ~?」
「いやまぁそうなんだけど、美人すぎるあんたが問題なのよ」
「エステだってモテてたじゃない~」
「あ゛あ゛あ゛! お、も、い、だ、さ、せ、る、なぁ!」
思わぬ反撃に遭ったらしい美少女な女神が頭を抱えて叫ぶ。美人な女神に悪意はないのだろうが、割ときつい一撃だったようだ。
その様子を見ながらティアナは隣のアルマへと小さい声で話しかける。
「リンニーって目立つもんな。何て言うか、美人ってだけじゃなくて、存在が華やかっていう感じだし」
「あんたと並んで歩いたら面倒なことになりそうね。それに、女三人で旅をしてるなんて知られたら、絶対男にちょっかいをかけられるわ」
アルマの返答を聞いたティアナは渋い表情をした。精霊の庭へ来る前までも街中で振り向かれることはあったが、それよりも大変なことになることに気付いたからだ。優れた容姿でひどい目ばかりに遭ってきただけにティアナの気は重くなる。
「そういう意味ではタクミは貴重な男だったんだなぁ」
「だからって簡単に男を加えるわけにもいかないしね。二人にしろ、三人にしろ、何かしら考えないといけないわ」
「ねー、ティアナ、アルマ。あれ、いつまで続くの?」
二人で話をしているとウィンが寄ってきて話しかけてきた。既に用が済んだウィンは完全に他人事だ。
難しい顔をしたティアナが口を開く。
「いつまでって言っても、気が済むまでとしか」
「うわ~ん! ティアナ~助けてよ~」
突然やって来たリンニーがティアナの背後に回るとエステへの盾替わりにした。いきなりのことでティアナは身動きが取れない。
そこへやって来たすっかりおかんむりなエステに睨み付けられる。
「リンニーとの話はまだ終わってないの。どきなさい」
「がっちり捕まえられて逃げられないんだが?」
「あくまで庇うというのなら、こっちにも考えがあるわよ?」
「俺の話を聞いてないだろ」
頭に血が上っているエステに向かってティアナはため息をつく。背後からはリンニーの涙声が聞こえてきた。
「わたしお外に行きたいよ~」
「さっき言い合っていたのを聞いた範囲でリンニーが残念だってのはわかった」
「え~ひどい~」
「これって、この精霊のうちひとつで常に護衛しておくっていうのでも駄目なのか?」
「あんた、リンニーを連れて行きたいの?」
「別にどちらでも良い。ただどっちかはっきりとして欲しいだけだよ。ウィンが保証するくらい優秀な精霊だそうだけど」
「そうだよ! とっても優秀だよ!」
条件反射で答えているとしか思えないウィンの返答が辺りに響いた。
胡散臭そうにその姿へと目を向けたエステが問いかける。
「認めたくないけど、確かに優秀なのはわかるわ。腹立たしいけどね」
「なんでそんなに嫌そうなの? みんなできる子だよー」
「脳天気に言われると余計むかつくわね。まぁいいわ。ティアナ、精霊のひとつを常に付けてくれるのね?」
「場合によっちゃ、色々と取っ替え引っ替えするかもしれないけど、最低ひとつは常にな」
ティアナの言葉を聞いたエステは考え込む。そして、しばらくすると顔を上げた。
「なら、リンニーがお間抜けなことをしようとしたら、その精霊を使って捕らえて」
「お間抜けなこと?」
「ひとりでふらふらどこかへ行こうとしたり、声をかけてきた知らない雄についていこうとしたりよ。ああそうだ、人間の子供のしつけ程度で教わることに違反したらって言った方が早いわね」
「お子様だな」
「ええ、お子様よ?」
にっこりと笑うエステにリンニーがティアナの背後から「そんなことないもん」と抗議するが、目が合った途端にティアナの背中へと隠れた。
少しエステの苦労がわかったティアナが承知の返事をしようとすると、エステはその場で待つようにと言い残して御神木の幹へと走って行った。幹の辺りで何かをしたかと思うと、両手で水を掬うような様子のまま歩いて戻ってくる。
「ティアナ、小さい袋ってある?」
「袋? ああ、荷物の中になら」
「これで良いのならあるわよ」
会話に割って入ったアルマが取り出した革製の小袋に両手の中のものを入れた。
その小袋の中からエステが一粒の種を取り出すと説明する。
「これはね、捕縛の種よ。対象者を見定めて放り投げると、相手を絡み取るの」
「米粒みたいだな。これがいきなり成長するのか?」
「米粒? 何それ?」
「その様子だとこの世界に米はないのか。ともかく、米粒ってのはタクミの世界にある食べ物となる植物の種のことだよ」
「へぇそうなんだ。ともかく、リンニーがおいたをしたら、これで縛って一晩放って置いてちょうだい」
ここまで説明を聞いたとき、ティアナは自分を掴んでいる両手が震えていることに気付いた。
あえてその様子を見ずにティアナはエステへと問いかける。
「もしかして、以前リンニーに使ったことがあるのか?」
「散々使ったわよ。ねー?」
ティアナの背後をのぞき込んだエステの笑顔を見てリンニーが更に震え上がる。
「ティアナはそんなひどいことしないよね~?」
呆れながらティアナが質問を続けた。
「これって相手を動けなくするだけなんだよな?」
「そうよ。でも、神の炎でも簡単には焼け落ちないくらい丈夫なんだから」
「実はこれ、神様がくれた貴重な種なんじゃないのか? 伝説とか神話に出てくるような」
「そうよ? あたしは植物を司る神なんだから」
今の今までそのことをすっかり忘れていたティアナは目眩がした。
「ということで、精霊で守りながら、悪さをしたらこの種を使ってお仕置きをする。この条件を飲むのなら、外に出てもいいわよ」
リンニーからの返事はない。
さすがに面倒になってきたのでティアナが自分の背後から引き離す。正面からその姿を見ると今にも泣きそうな顔だ。
「ウィン、精霊全員に言い聞かせておいてくれ。後で俺も改めて憑依して説明するけど」
「わかった! みんなー、こっちにおいでー!」
「それとエステ、この種って俺でないと使えないのか?」
「いえ、あんたとアルマならどちらでも使えるわよ」
「それじゃ任せた」
「あんたねぇ。堂々と汚れ役を任せるんじゃないわよ」
文句を言いながらもアルマは捕縛の種が入った小袋を懐にしまう。
そうしてティアナは改めてリンニーへと向き直った。
「ということで、リンニー、この条件なら旅に出ることをエステも許可してくれるそうだが、どうする?」
「えっとね、その種をできるだけ使わないようにしてくれる~?」
「それは色々悪さをするという宣言でいいんだな?」
「ち、違うよ!? わたし悪いことなんてしないもん!」
「なら、この条件がついても大丈夫だよな?」
「は~い」
しょんぼりと肩を落としたリンニーが小さな声で返事をした。
ティアナが振り向いてエステを見る。
その顔には、勝ち誇ったかのような満面の笑みが浮かんでいた。
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