第43話:新たな力と新たな敵
「喋らないな」
あれからゼウスはサンストームに帰った後、拾ってきた剣に合う鞘を街の武器屋で作って貰い家で眺めているが、最初の登録時以来、剣は一言も喋らなかった。
「何か足りないのかな?」
「うーん……、あ」
ゼウスは剣をぐるぐると見回していたが、柄の真ん中に小さなバッテリーゲージの様な物が付いている事に気付いた。
「燃料切れっぽいけど、その燃料が分からないな」
ゼウスが呟きながら剣を抜くと、黒い刀身が姿を現す。その刃を見続けていると、吸い込まれそうな錯覚に陥る。
「魔力じゃないの?」
夏休みで帰省しているフェリクスが、剣の上に炎を出してみる。
すると、一瞬で剣が炎を吸収したように見えた。
「お?」
もう一度、炎を出してみる。
やはり、炎はすぐに剣に吸い込まれる様に消えて行く。
「これならどうだ」
フェリクスは次に『蒼炎』を出す。しかし、その炎さえも一瞬で吸い込んでしまった。
「おお!」
喜んでいるフェリクスの横で見ていたゼウスが、剣の異変に気付く。
「ゲージが増えた……」
ゼウスの視線の先には、五ブロックあるゲージのうち、一つが点灯し始めていた。
フェリクスが面白がって剣に炎を吸わせ続ける内に、程無くゲージが全て溜まる。
「チャージ一〇〇パーセント カイホウシュダンヲ センタクシテクダサイ」
「うわ、喋った!」
驚くフェリクスの前でゲージが満タンになった剣が、黒い刀身をうっすらと光らせ、警告の様に同じ言葉を繰り返し始めた。
「何か、そこはかとなく嫌な予感がするな」
ゼウスはそう言うと、剣を鞘に収め、外に向かって歩き始める。
「あら、何処に行くの?」
夕飯の支度を始めていたステファニーが、扉の前でいそいそと出かける用意をしていたゼウスに声をかけてきた。
「ちょっと剣の試し切りに行ってきます」
「こんな時間から?」
「一晩置いとくと、暴発しそうなので……」
「剣が、暴発?」
「面白そうなので、僕も行ってきます」
話が見えないステファニーは不思議そうな顔で二人を見送る。
そして、小一時間程すると、突然轟音が辺りに響き渡った。
「え? 雨も降っていないのに雷?」
ステファニーは窓から外を伺うが、夕日に染まった雲一つない赤い空が広がっているのが見えると、再び夕食の準備に戻った。
「ただいま……」
更に小一時間して食事の準備を済ませたステファニーが、食卓で待っていると、元気のない声でゼウスとフェリクスが戻って来た。
「お帰りなさい、どうしたの? 二人とも元気ないけど」
ゼウスはしょんぼりした顔で経緯を話始める。
「どうも、この剣は相手の魔力を吸収して放つ武器らしいんだけど、説明通りに振ったら森が一つ灰になってね。轟音に驚いた衛兵がやって来て、こっぴどく叱られました」
「凄かったよ、ゼウス。僕の炎より全然強かった」
フェリクスの蒼炎五発分を一度に放出しているのだから、それはそうだろう。そんな事は覚えてもいないような勢いでフェリクスの顔は輝きだした。
「他にも雷とか、氷とかあったのに試したかったなぁ」
「だよね、衛兵が邪魔しに来なかったら、もっと遊べたのに」
二人は衛兵に怒られて凹んでいるのではなく、もっと遊びたくてしょんぼりしているだけだった。
「もう、あまりご近所さんに迷惑かけたらダメですよ。ささ、冷めない内にご飯にしましょうか」
二人を食卓へ着かせると、ステファニーは火にかけていたスープを用意する為、厨房へ戻る。
その時、扉をたたく音が響いた。
(もう、せっかく食べられると思ったのに)
ステファニーは心の中で悪態をつきつつ、扉へと向かう。
「はいはい、どちらさ……ま?」
扉を開けたステファニーは、珍しい顔に再開して暫く固まっていた。
「家が合っていて良かった」
「アーダ!」
少し恥ずかしそうに呟くダークエルフに、ステファニーは飛びついた。
「どうしたの? こんな所まで。場所が良く分かったわね」
「ああ、来る途中、大きな爆発が聞こえてな、近づいたら二人が歩いているのが見えて、その後を着いてきた」
「その時に声かければ良かったのに」
「確信が無くてな。ガロイア神のプリーストの宿舎に入ったから、思い切って扉を叩いてみたんだ」
「アーダさん、久しぶり! って言っても二週間ぐらいかな」
入り口で話し声が聞こえるので、ゼウスとフェリクスもいつの間にか来ていた。
「そんなところで立ち話もなんだし、一緒にご飯を食べよう」
「そうね、そうしましょ」
ゼウスの提案にステファニーが頷くと、皆は食卓へと戻る。
「こっちの方に用事があったの?」
「いや、引っ越しのついでだ」
「あら、じゃあ結局里は出ちゃうんだ。ラムスさんは一緒じゃないの?」
「里は無くなった。そのごたごたで、ラムスは走り回っている。私もここへは世話になったから挨拶に来ただけで、すぐに出る予定だ」
「え? 里が無くなったって、……ええ?」
ステファニーは事情が呑み込めず、オウム返しに聞き返す。
「お前達が遺跡に潜った後に、サイラスとカルベナの兵士共が里を襲ってきたんだ。ユハ殿との関係が切れて丁度良かったのだろうな、奴らはエルフを本格的に奴隷商売にしようとしていたらしい」
「そんな……」
悲痛な面持ちで話を聞くステファニーに、アーダは優しい声で応える。
「心配しなくても大丈夫だ。我々はフルメヴァーラ様の元へ戻るつもりもあったから、いつでも動けるようにしていたのが幸いして、すぐ逃げだせた。ただ、ユハ殿達元排斥派は、最後まで抵抗していた。今思えば我々を逃すためだったのかもしれんが……。そしてそれを見ていたフルメヴァーラ様は、怒って里を攻撃し、焦土にされたのだ」
(あの森を焦土にするって、やっぱり相手にしなくてよかった)
ゼウスは口にはしなかったが、心の中でほっと胸を撫で下ろしていた。
「それで、フルメヴァーラさんは、サイラスかカルベナに戦いを仕掛けるんですか?」
ゼウスは危惧している事を率直に聞いた。
「正直なところ、まだ分からん。フルメヴァーラ様の怒りがどれ程のものか、帰ってみないと分からないし、サイラスには勇者が召喚されていると聞く。そうなれば負けは無いとしても、それ相応の犠牲が出るだろうからな」
「なるほど、無理な戦いはしないに越したことはないですね」
出来れば戦いになっては欲しくないゼウスは、アーダの言葉に若干ほっとする。
見た事もない人々が、何処で戦って死んでいようと気にはしないが、一度知ってしまった人が戦いに巻き込まれていると知れば、気が気ではないのが人情というものだ。
しかも、ラダールの勇者という立場であれば、おいそれと加勢にも行けない。魔物との闘いならまだしも、相手が人間となれば、国家間の軋轢というものが生じてしまうからだ。
「邪魔したな」
アーダは食事の間に話を済ませると、ラムスに合流する為、すぐにゼウス達の家を後にした。
「何かあったら、連絡くださいね。できる限りの事はするわ」
「今まで世話になりっぱなしだからな、そうそう甘えられない」
「そんなの気にしないで」
アーダとステファニーは別れを惜しむように軽く抱き合うと、お互いの先を祈って別れた。
「戦いにならなければ良いんだけど……」
「そうなったら、……何とかしたいよね。まだアーダさん達の子供も見てないし」
「そうね、いつか見に行きたいわね」
それは、何かあったら助けに行くという二人の意思の再確認の様だった。
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