第42話:先人の残したもの

「いっせき! いっせき! どっこまっでもっぐるー!」

「ラウラって、こんな子だったっけ?」


 陽気に歌いながらエルフの里の古代遺跡を潜り始めたラウラに、フェリクスは不思議なものを見る様な目で呟く。


「ま、まぁ、こっちが本当のラウラちゃんなのかもね」


 微妙に引きながらも、二人の後についてステファニーが入り口の階段を下りる。


「元気なのは良いじゃないか」

 

 そして、メイン武器が無いゼウスが殿を務める。こうして計四人のパーティーで、古代遺跡の調査が始まった。


「取り敢えず、エルフ達が掘り進めている十階層まではさくっと進むか」


 一行は特に警戒もなく、ずんずんと下に降りて行った。

 遺跡は巨大なすり鉢状に掘り進められており、各階層に横穴が広がっている。

 横穴から大きなものが出土した場合、すり鉢の中央まで運んで、そこから地上へ引き上げる形だ。

 すり鉢は十五階層まで掘り進んでいるが、魔物の数が増え、より強くなっているので、調査が完了しているのは現在十階層までである。


「ここから先だっけ、魔物でるのは」

「ああ、面倒だから十五階層まで降りるぞ」

「もぐろ~!」


 フェリクスの問いかけに、ゼウスが答える横で、ラウラがハイテンションで同意する。今日は朝から目が輝きっぱなしだ。


「じゃあ、準備しときますね」


ステファニーは全員にプロテクションをかけると、天罰の杖・改に明かりを灯す。


「フェリクスは、穴の中で炎を使うんじゃないぞ」

「え、なんで?」

「酸欠で死ぬだろが」

「さんけつってなに?」


 聞いた事ないゼウスの言葉に、フェリクスは首を傾げる。


「空気が無くなって、息が出来なくなる事だ」

「えー、じゃあ僕何も出来ないよ」

「空気があれば良いのね」


 突如、杖の中からえりこの声が聞こえると、辺りに突風が巻き起こる。


「やめんかー!」


 周囲の岩が崩れ、小石がガンガン当たってくる中、ゼウスが叫んで止めさせた。


「そんな中で火を点けたら、全員丸焦げだ!」


 その後も暫く説教された後、結局フェリクスはゼウスの前に来て、十五階層へと降りて行く事になった。

 横穴に入ってすぐ、ゴブリンやコボルドがうろつくフロアを難なく突破して行く。

 奥に進むにつれ、オーガやミノタウロスなど魔物のレベルも上がって行ったが、ある場所を境に、魔物の出現がぴったりと止まってしまった。


「さっきの扉から壁の色が変わったね」


 フェリクスはそう言うと、それまでごつごつとした岩肌だった壁から、ツルツルの肌触りに変わった壁を撫でる。

(うーん、これはどう見てもSFチック!)

 ゼウスはアニメで見た基地の通路を思い出していた。

 一行はそのまま進むと、通路の突き当りらしきところに扉を見つける。そして、その前に何かがいる事に気付いた。

 それは、大きさこそ人間大だが、姿形はエルフの森で暴れたゴーレムにそっくりだった。


「ニンショウコードヲ ニュウリョクシテクダサイ」


 ゼウス達を認識すると、青い目を光らせて話始める。

(あ、これパスが分からなくて、暴れ出す奴だ。どうやっ……)


「ニンショウヲ ガ、ガガガ」

「よく分からないので、破壊しました! 先に行きましょう!」


 ラウラは目を輝かせたまま振り返ると、先を促す。

 扉の前に立っていたミニゴーレムは上半身から上が四角く削り取られていた。

(代行者怖えぇ……)

 扉を開け、一行が中に入ると、そこは広場になっていた。周囲に張り出した金属が並んでいるが、どれも朽ち果てており、元が何だったかは判別できそうもない。


「あっちの奥に行けそうですよ」


 左奥にある穴を指さすと、ラウラは率先して先へと進んで行く。もはや完全にラウラの遊びに付き合っている体になっていた。

 周囲を警戒しつつ、最後にゼウスが奥の部屋へ入ると、そこは倉庫の跡の様だった。何に使うかよく分からないものが地面に散乱している。

(これ、銃かな)

 光線銃っぽいデザインの物体を拾い上げると、入ってきた方に向けトリガーを引いてみる。しかし、なにも起きないのでゼウスは銃をその辺に放った。


「セイタイハンノウヲ カンチ」


 何処からともなく聞こえる声に、皆が耳をそばだてる。


「セイタイハンノウヲ カンチ」

「その辺じゃない?」


 フェリクスが、ゼウスの足元を指さす。

 散乱する部品をかき分けゼウスが掘り進めると、そこには一本の剣があった。


「おお、剣みっけ!」

「セイタイハンノウ カクニン 七八パーセントノカクリツデ ニンゲンノDNAトハンダン」


 ゼウスが取り上げた剣は淡く光を発しながら、なおも話し続けていた。


「イニシャライズカイシ……ネームエントリー」

「……」

「ネームエントリー」

「……」

「MDS-Iガ ナカマニナリタソウニ コチラヲミテイル」


(これ、絶対……)

 この武器、というか、この場所を作ったのが、絶対元の世界の人間だよなぁとゼウスは思いつつ、名前を告げる。


「ゼウス・サトウ」

「ネームエントリー カンリョウ コンゴトモ ヨロシク」

「はいはい、宜しく」


 ゼウスは発光が収まった剣を布で巻くと、背中に括りつける。

 他にも床をかき分けて探してみたが、他に仕えそうなものは出てこなかった。


「で、ラウラはそこでなにしてるの?」


 部屋の隅で祈りを捧げているラウラに向かって、フェリクスが声をかける。


「今までで最も深い所に来たので、記念にシアリス様に祈りを捧げてます」

「ああ、……そうなんだ、おめでとう」

「あら、という事は、ここで終了なのかしら?」


 隅でまったりしていたステファニーが帰り支度を始めようと立ち上がる。


「そうですね。これ以上、下は危険なようですので」


 祈りを済ませたラウラが、何気に物騒な事を言いながら立ち上がる。


「え、何か物騒な物でもあるの?」

「はい、シアリス様が言うには『近づかない方が良い』との事です」

「お、おう……」


 ゼウスは皆を集めると、そそくさとその場を去った。




「何か良いものはあったか?」

「おかげさまで、取り敢えず剣は一本見つけたよ。有難う、アーダ」

「そいつは何よりだ」

「ところで、十五階層より下って、何があるか知ってる?」

「いや、ユハ達が調査していたのがまだ十層辺りって話だから、それ以上は知らないね」

「そうか、有難う」


 ゼウスは、ラウラの言葉が気がかりだった。

(何も起こらなければいいんだけど、これってフラグだよなぁ……)

 見上げる空には、フルメヴァーラの使い魔がくるくると舞っていた。

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