第15話:初めての依頼
「えーっと、ここかな?」
依頼書を見て、場所を確認するフェリクス。
夕方からという事もあって、今日は近場に出没する魔物の討伐依頼を選んでいた。
最近、サンストームの街に夜な夜なゴブリンを退治して欲しいとの事で、一匹、銅貨五十枚の討伐報酬になっている。
フェリクスは街道の入り口に立つと、早速ラウラと立ち回りの相談をした。
「取り敢えず、僕が倒すので、怪我したら回復して」
「わ、わかりました」
初めての討伐に緊張しているのか、ラウラは両手で杖をぎゅっと握り締めると、真剣な眼差しで頷く。
夕日が赤く染まり始めた頃、夜行性であるゴブリンは、早速外壁の周りに現れ始めた。
『ファイア!』
フェリクスは、いつもの調子で魔力を十発分込めたファイアをゴブリンに向けて放つ。
炎に包まれのたうち回るゴブリンは、一瞬で灰になった。
「あ……」
討伐報告する為の耳まで灰にしてしまった事に、今更ながら気づく。
次に現れたゴブリンからは、一発分の魔力のファイアで炙り、絶命した所で耳を削ぐ。
削いだ後の死体は、後からまとめて焼却するので、フェリクスは倒したゴブリンを一か所に積んでいく。五匹ほど積むと、既に結構な山になるので、そのスペースはどんどんと広がっていった。
「あ、フェリクスさん、それでしたらこちらに」
その様子を見ていたラウラは、フェリクスに声をかけると、両手の親指と人差し指を伸ばし、目の前に四角形を作る。そして、
『スクエア!』
と唱えると、一瞬にしてゴブリンを積んでいた下の地面が、三メートル四方に渡って窪み、ゴブリンを飲み込んでいった。
「なにこれ!」
初めて見る魔法に、フェリクスは目をキラキラさせながら穴の淵に駆け寄る。
窪みを覗き込むと、穴の底に先程落ちたゴブリンが積み重なっていた。
「土系の魔法で、任意の場所に任意の大きさの四角い穴を掘れます」
「かっこいい……」
「あ、ありがとう、ございます」
目を輝かせて自分の魔法を褒めてくれるフェリクスに、ラウラは頬を赤らめながらお礼を言う。
それ以降は、要領を掴んだフェリクスが、片っ端からゴブリンを焼き払い、ラウラが耳を削いで穴の中に放り込んでいった。
最初は嫌がるかと思ってフェリクスが削いでいたのだが、小さい頃から結構そう言った仕事もしていたようで、抵抗感なくこなしていたし、筋力強化の魔法をかけて片手でひょいひょいと運んでいく姿は何とも頼もしかった。
「ふー、こんなもんかな」
夕日が沈み始める頃には、用意していた革袋の中はゴブリンの耳で一杯になっていた。
ラウラがあけた穴も、何回か拡張していたが、ゴブリンの死体で溢れている。
フェリクスが、その死体を極大ファイアで一気に灰にしていくと、ラウラは、その光景の前で手を握り、成仏するよう祈りを捧げた。
冥界神に仕えるプリーストが、彷徨える魂に祈りを捧げると、その魂は冥界へ行った時に冥界神の信者となる。
本人にその意識は無いのだが、ラウラは冥界神に仕えるプリーストとして、忠実に活動をしていた。
二人はギルドハウスに帰ってくると、ゴブリンの耳が入った革袋と依頼書をカウンターの受付に渡す。
そしてテーブルに着き、ホットミルクを頼むと待ち時間に飲みながら、まさおと遊んで時間を潰した。
やがて名前を呼ばれ、二人がカウンターに行くと、トレーに乗せられた銀と銅に輝く硬貨が詰まれているのが見える。
「よくこの時間でこれだけ倒せたな。討伐報酬は二十三匹で、銀貨十一枚と大銅貨五枚だ」
実は両耳入れているのではないかと、ギルドの職員が疑って何度か調べていたので少し時間がかかっていたのだが、初めての依頼だったので二人は特に気にしていなかった。
受付の男は今でも不思議そうな顔をしているが、先生の「あの子達は、ここにいる誰よりも強いのですから」と言う言葉が、まんざら嘘でもないと思い始めていた。
受付の男がトレイに乗せて出した報酬の中から、フェリクスは銀貨を五枚抜くと、残りをトレイごとラウラに渡す。
「はい、半分こ」
「こここ、これ、半分より多いし、私何にもしてないし、こんなに貰えないし!」
初めて見る大金に動揺するラウラは、両手をぶんぶん振って拒否する。
「ゴブリン運んでたし、耳削いでくれたし、あと、すごい魔法見せてもらったお礼。それに回復役がいると、安心して攻撃できるから、今日はすごく助かった」
「い、いいんですか?」
本当に貰っても良いのか、いまだに信じられない様子で、ラウラはフェリクスを見上げる。
「うん」
優しく微笑むフェリクスの顔に、ラウラは安心すると、差し出すトレイを大事そうに両手で受け取った。
二人が外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていたので、フェリクスはラウラを家まで送って行った。
「今日は色々と、有難うございました」
家の前で、深々と何度もお辞儀をするラウラ。
「こちらこそ、楽しかった。また学院で」
「あのっ」
手を振って帰ろうとするフェリクスを、ラウラは思いつめたような表情で呼び止める。
「良かったら、また……」
「いいよ。学院で声かけてくれたら、行けるかどうか答えるから」
穏やかに微笑みながら答えると、再び手を振りながらフェリクスは教会の宿舎に向かって歩き始める。
「ありがとう」
ほのかに頬を赤く染めながら、ラウラはフェリクスが見えなくなるまで、手を振っていた。
フェリクスが宿舎に帰ると、辺りはすっかり静まり返っており、入り口の扉を開ける音すら大きく感じて緊張する。
「ただい……」
「何時だと思ってるの!」
扉を開けた瞬間、ステファニーが仁王立ちで待ち構えていた。
「う、ごめんなさい」
フェリクスは突然の事に驚くが、今更ながらステファニーに心配をかけていた事を理解すると、素直に謝った。
「何してたの?」
「人間には教えられない」
フェリクスの肩越しにまさおが顔を出すと、いつもの顔で答える。
「へぇー」
「やーめーろーよー」
ステファニーは、両手が熱いのもお構いなしに、まさおの顔を拳で挟んで持ち上げると、グリグリしながら食卓へ入って行く。
「ごはん、温めるからちょっと待ってなさい。話はそれから聞くわ」
「はい」
フェリクスも返事を返すと、後に続いた。
「シアリス神の中級プリースト? 学校にそんな子いるんだ」
魚のパイにかぶりつくフェリクスを見ながら、ステファニーは感想を漏らす。
「そんな簡単に中級ってなれるの?」
「そんな訳ないわ、私だって先生に付きっきりで教えて貰って、五年かかったんだから」
「ふーん」
フェリクスはレンズ豆のスープを啜りながら、何か考えている様だった。
「でも、フェリクスがいつの間にか、女の子とデートする様になってたとはねぇ」
「ごふぁっ!」
突然スープを吹き出しながら咽るフェリクスを、感慨深い面持ちでステファニーは見つめる。
「そんなんじゃない」
若干照れながらも、フェリクスは否定する。
「じゃあ、何なのよ」
照れるフェリクスを見て面白がると、ステファニーは更に追求した。
何かと言われ、フェリクスは考える。
最初は、困っている彼女を助けてあげたいと言う気持ちで、一緒に依頼を始めた。
魔法を使う彼女を、恰好良いと思った。
頬を赤くし、はにかんだ表情で答える彼女が可愛いと思った。
何かが、自分の心の奥底で暖かくなるのを感じていた。
でも分からない。
この感情が『好き』と言うものなのか、自信が無かったし、口にするのも恥ずかしかった。
結局、答える言葉が思い浮かばないフェリクスは、背中にへばりついているまさおを剥がすと、ステファニーの眼前に差し出す。
「人間には、教えられない」
「あら、ざんねん」
ステファニーは微笑みながら言うと、それ以上の追及は勘弁してあげる事にした。
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