第24話 戦いの準備

「魔法を使っているところを見た限りでの推測なんだけど……南雲さんの能力は多分『ある対象物と、別の場所にあるもう一つの対象物を入れ替える能力』なんじゃないかな」


 引き続き、展示室にて。

 俺とライラックは、南雲の能力について話し合っていた。


「さっきで言うと、メダルと船あるいは武器を入れ替えたってことか」

「ただ……わざわざメダルを持ち歩いて利用してるし、無制限に何でも入れ替えられるってわけじゃなさそうかな」

「なんでも入れ替えられるなら、その場にあるものを手当り次第使えばいいってことか……」

「うん。その気になれば、葉月くんの剣を木の枝とか……もっと攻撃的な手段を選ぶなら、爆弾なんかと入れ替えたりだってできるはずでしょ?」

「それをしないってことはつまり……南雲の能力には何かしら、条件があるってことか」

「そういうことだね、きっと」


 ライラックは椅子に座る俺のすぐ隣に腰を下ろしながら、頷く。

 ここまでの考えは、どうやらお互い概ね一致しているようだ。


「後は多分、人間を直接どうこうするってのも無理だな。極端な話、敵の体の一部を直接凶器と入れ替えたりすれば、必殺だし」


 俺の予想に、ライラックは「おお」と感心した様子を見せる。


「それに私を生け捕りにするのが目的なら、私を檻の中にでも移動させればいいもんね。葉月くん、頭いいねえ」

「これくらいで大袈裟だな……」

「えー、そんなこと無いと思うけど?」


 否定的な俺に微笑ましげな視線を向けてくるライラック。

 ……こいつにいちいちペースを乱されていたらキリがない。


「とにかく……南雲の能力は、生きているものには干渉できない。そして恐らく、対象物にあらかじめ触れておく必要がある」

「なるほど……それが南雲さんの能力の対象にできる条件ってわけだね!」

「ああ。そう考えれば、メダルを持ち歩いているのにも説明がつく」

「そっか……じゃあ、メダル以外のスプリンクラーとかを武器に入れ替えてたのは、先回りして事前に色々触っておいたってこと?」

「まあ、そういうことになるんだろうな」


 これで大体ではあるものの、南雲の能力について見当がついた……とはいえ。


「葉月くん……なんだか浮かない顔してるね?」

「あー……そんな風に見えるか」

「うん。葉月くんの表情って、意外と分かりやすいから」

「喜怒哀楽に合わせてころころ表情を変えるライラックが言うなら、よっぽどなんだろうな」

「むむ……なんだか棘のある言い方だね?」


 ライラックは少し不服そうに、ジト目を向けてくる。

 が、その視線はすぐに優しげなものに変わり。


「悩みとか不安があるなら、私が聞くよ?」


 ……この状況では極力、後ろ向きなところは見せたくなかったんだが。

 ライラックの厚意を無下にするのは、忍びない。


「南雲の能力について見当がついたところで、こっちの攻撃が通用しないことには変わりないし……どうしたものかと思ってな」

「うーん……そういうことなら実は、さっきの葉月くんと南雲さんの戦いを見ていて、気づいたことがあるんだけど……」


 ライラックはそう言うが、どうも自信なさげだ。


「どうした? 何かあるなら、言ってみてくれ」

「ん、じゃあ……」


 ライラックは小さく頷くと、何故か俺の耳元に顔を近づけてきて、ぼそぼそと耳打ちしてきた。

 ……二人しかいないのに、こそこそする意味あるのか。

 耳をくすぐる吐息に緊張感を覚えながら、俺はライラックの話を聞く。


「……――ってことなんだけど、どうかな? もしかしたら、あんまり役に立たない情報だったかもしれないけど……」


 謎の内緒話を終えて、ライラックは顔を遠ざける。


「いや……一つ策を思いついた」

「おお!?」

「正直、やるしかない状況じゃなきゃ絶対やりたくないってのが本音の、お粗末なものだけどな」 


 俺は自嘲気味に、そう口にする。


「無謀と言うよりはただの馬鹿ってレベルだし、もしかしたら失敗するかも……」

「大丈夫だよ葉月くん……二人ならきっと、出来るよ」


 何の根拠があるのかは知らないが、ライラックは迷いなく言いながら、俺の手を取り、握りしめてきた。

 するとどういうわけか、俺の中にあった弱気な心まで、薄らいでいく。


「……ああ、そうだな。やってみるか」

「うんっ!」

 

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俺の家に魔法少女が花嫁修業に来てからの(非)日常 りんどー @rindo2go

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