Chapter1 サイバネティック・オーガニズム
Chapter1-1 年上の幼馴染、襲来す
地球人類の築き上げた一大文明を悉く崩壊せしめた「再起動」。
それは数百年前の”歴史上の出来事”となり、ポストアポカリプスが今日の人類の当たり前となった世界。
日本列島全体にまたがっていた人類の生活圏は、大地の山脈化により分断され、地盤の安定した場所に築かれた街が辛うじてコロニーとして点在するだけの歪なものとなった。
かつての時代を取り戻さんと息巻いていたのも最初の内だけで、人類は数百年もの間命を繋ぐのが精一杯という有様。
進歩を目指す余裕を持つことも許されず、種は停滞を迎え、緩やかな滅びへと向かい続けている。
武蔵野台地にまたがる開拓者たちの一大拠点「立川」。
深夜に一帯を襲った猛吹雪から数日が経ち、街は普段通りの活気を取り戻していた。
立川の街を囲む城壁に、定刻からやや遅れて行政区「青葉」からの貨物列車が到着した。
錆びついた線路が軋み、排気音が辺りに響き渡る。
列車が完全に停止するのを待つまでもなく、駅構内に待機していた者達が荷入れのため車両に一斉に殺到した。
屈強な男達によって連結された車両がそこかしこで揺らされる中、最後尾の客車からは一人の身綺麗な女性が姿を現した。
女性はしわの一つもない制服に身を包み、片方の手でカートを引きながらホームをゆったりと歩く。
行政区中枢に籍を置くミナ・レインデルスは、都市間の物資輸送を担う公機関リンクの中心人物であり、先だってそこの長官職を拝命してからというもの、日々激務に取り組んでいた。
この日は政府から生活圏拡大の任を請け開拓作業の指揮をとる民間組織ギルドの視察と、そのトップである人物との挨拶のため立川を訪れていた。
ミナはコンコースの案内板を眺めてギルドがある建物の場所を確認する。
先方にアポイントメントを取り付けた時間まではまだまだ余裕があり、このまま向かえば遅れることもなさそう、というよりも、早く着きすぎてしまうほどの時間がある。
──あいつ、どうしてるかしら?
ミナは腕時計を見ながらそんなことを考える。
彼女が予定時刻よりもだいぶ前倒して立川にやってきたのは、とある知り合いに会うという、ごく私的な用事のためであった。
ちゃんとメシは食っているのか?
大きな怪我などをしていないか?
元リンク所属という過去を持ち、現在は立川ギルドに籍を置く人間。
ポスター・アクロイドという”幼馴染”の顔を彼女は思い出しながら立川の街中へと進んでいった。
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