おちこぼれたちの大迎撃

第33話 動き出す新たな王

  警報が鳴り始めてから半日ほど経ち、日が沈み闇夜に包まれる。


 パラルロムにいる自衛団、勇者は街の門周辺へと待機し、いつ襲来されても大丈夫なように配置されていた。

 しかし、一向に魔族が襲いかかる気配がない。


 日が超えたため、眠気や疲労に襲われる者が現れ始める。また、警戒心が徐々に薄れ、誤報なのではと疑問する声も上がる始末。

 パラルロムは今まで魔族に攻められたことがない故に、魔族などの戦闘経験に長けたものは僅かしかいない。


「伝令です。遠視魔術を行使している索敵班より、パラルロムの警戒が薄れているということです。そして街の外ばかりに配備されているとのことです」

「ふん。他愛もない……やはり人間は弱いわね。こちらの準備は?」

「魔力充填率百パーセント、魔術陣安定起動確認済み。……いつでも発動できます!」


 パラルロムの西方にある森に見を潜める魔族たち……長であるローザリンデはつまらなさそうに溜息をついた。


「どうして先代はちゃちゃっとあの街を手にしなかったのか疑問でしかないわ。魔術を使う戦争で、はなから近接戦闘するわけないでしょうに」


 近距離の戦いは魔術戦争において序盤には行わない。〝触れる〟ことを条件とした能力には強力なものが多く、魔力において有利な魔族においてはリスクが高い。

 人間たちは近接戦闘を前提に、街を囲む塀や街中に多数の迎撃魔術を仕込んでいるらしいが、遠距離から焼き払ってしまえば意味がない。


「だから四天魔王最弱なんて不名誉な呼ばれ方をするのよ」

『余計なお世話だ』


 どこからともなく男性の声が響く。


『まさかお前が新たな王になってるとはな……ローザリンデ=バルシュミーデ』

「やはり生きてたのね、イグナーツ」


 ローザリンデの眼前に、黄色に点滅する小さな光が飛んでいた。通信用の魔術である。


「そうよ! そして私は今、四天魔王に上り詰めた!」

『お前がか?』

「ええ。四天魔王会議に参加して、新たに迎え入れて頂いたわ」


 イグナーツは何も答えない。


「悔しいでしょう? あなたの居場所はここにない。そして、私のかけた呪いは解けない。私を殺したとて、永遠に発動し続ける!」

『そうか。ならばこれ以上の問答は――』

「不要よ!」


 光の玉が霧散する。

 ローザリンデはゆっくり立ち上がった。


「アイツにはもう好き勝手させない。一撃で滅ぼす」


 ローザリンデが、パラルロムのある方角へと右手を向ける。そしてゆっくりと天に向ける。


「人間ごときに特殊な力はいらない。ただ魔族の魔力を浴びせるだけでいい。魔力の機能不全になったあと、いたぶればいいだけ」


 足元に展開した魔術陣に輝きが広がる。


「打ちなさい!」

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