第24話 お礼と水浴び
森の中に、小さな池がある場所へ三人は飛び出た。少し開けたところで、周囲には害獣の気配も感じない。魔族が追ってくる様子もないため、休憩も兼ねて一晩過ごすことにした。
完全に日が落ちた今、森を動くには危険すぎる。
魔族も城を守るために兵は動いているだろうが、遠くまで遠征することはないだろうとイグナーツは考えていた。
こちらには魔族を殺せるほどの力がある。となれば、下手に分散して捜索すれば、コンラーディンのように殺されると考えるだろう。たった一人の天族のために、そこまでリスクを侵すとは思えない。
「俺は少し離れた川下で水浴びしてくる」
森の中を一日中走り回り、汗もかいた。イグナーツは一刻も早く水を浴びてすっきりしたかった。
「はーい! わかったよ!」
ティネの返事を聞き、イグナーツは体を吹くための布を手に川下へと向かった。流れが穏やかな場所を見つけ、服を脱ぎ、イグナーツは川へと入る。
冷たさが全身へ突き刺さり、段々と心地よさへと変わっていく。右の手のひらを開けると、先程の戦いでついた血が段々と流されていく。
先程の戦い、そして、ティネの言葉が脳裏へと思い浮かぶ。
「……あいつ、お人好しすぎるだろ」
イグナーツにとっては、命を狙ってきた相手をタダ倒したにすぎない。殺す直前に正体を教えたのは、イグナーツに呪いをかけた犯人を知るためであった。
コンラーディンの反応を見る限り、彼はまだイグナーツを慕っていた。演技をできるような性格でもないため、彼は反イグナーツの魔族ではなかった。だからといって生かせば、新しい魔王の命令により、厄介な敵として存在していただろう。
犯人までは推測できないおそらくイグナーツは死んだことになっている。そして、全員が反イグナーツではないことである。
「やろうと思えば、反逆することもできるが……魔術がな」
イグナーツは個人単体で魔術が使えない。先程、リリアーヌの体を介して発動することは出来たが、検証を積み課さなければ実戦で使えるか分からない。
「ま、今はのんびりライフに身を浸けながら、生命創造術の完成を待つか」
イグナーツは川の脇に生えている茂みへと目を向ける。
不自然に草が揺れていたのを視界が捉えた。
獣避けの薬はまだ切れていない。魔族や人間である可能性も極めて低い。となれば……
「イグ! 一緒に入ろ!」
「ちょちょ、ティネちゃん!」
一糸纏わず両腕を上げながらティネが走ってくる。そして川へと飛び込んだ。
「うっひゃ! 冷たい!」
「お前なぁ……せっかく俺が離れたところに移動したっていうのに、意味無いだろ」
「だってさ、家族って一緒に入るものでしょ?」
何言ってるのと言わんばかりのティネに、イグナーツは頭を抑えた。
「家族じゃねぇし。それに限度はあるだろ」
「むう……」
イグナーツはただ常識を言ったつもりだったが、ティネは頬を膨らませてしまった。
「分かった。ティネが気にしないなら構わない」
「ほんと! ありがとう!」
羞恥心もなくいられるなど、普通ではない。
まだ体に布をしっかり巻いて、顔を真っ赤にしているリリアーヌの方が常識がある。
「……やっぱり出ようか?」
「いいんです! その……魔術を使えたお礼ということもしたほうがいいと、ティネちゃんが……」
イグナーツの横へゆっくりと浸かるリリアーヌ。冷水に浸かっている筈なのに、熱湯でのぼせたような顔をしていた。
そのようなことを言われると、自然とリリアーヌの豊満な躰へと目が移ってしまう。白く透明な肌が、水に濡れただけで艷やかさが増している。布に水が含み、体のラインがより鮮明になる。
美しい清らかな水色の髪は、彼女の顔の赤さや体つきをより強調させている要素になっている。
「み、見ないでください!」
ぎゅっと自分の体を抱きしめるが、その所作も危ういことに彼女は気付いてないだろう。
こほんと咳払いし、イグナーツは視線を反らした。
「ま、俺の元の体を凝視してたからお互い様だな」
「あ、あれは……たまたま見ちゃっただけなんです! ほら、天族の性ってやつで……敵意的なものが反応しちゃうわけなんですよ」
「もしかして、時々見てたりするのか?」
「そそそ、そんなわけないじゃないですか!」
リリアーヌの狼狽っぷりは嗜虐心を激しく揺さぶられる。
「なんか二人だけ楽しそう……」
「楽しくないですっ! ティネちゃんもあの大人びた下着を見せればいいじゃないですか!」
「でもおっぱいにはかなわないし……」
なぜか不貞腐れているティネに、必死で反論するリリアーヌ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます