パニック
スニネンとファンベレロの発見はアオメムシクイが食用に駆逐されだしてから二週間経ってのものだった。驚異的なスピードで発見されたとはいえ、既に多くの人間の体内に潜入したトリコックスは堰を切ったように虐殺を始めた。世界での死者は既に1億を超えている。かなり安価に売買されたことが要因で、特に低所得層は一掃されんばかりの勢いだった。
これはまだ始まりに過ぎない。ほとんどの国政は事態を重く見た。各国軍を挙げてアオメムシクイの駆除に乗り出し、フィンランドは固有種の駆除にも追われた。
人々は恐怖し、アオメムシクイを食べた人間は殺されるか、恐ろしさのあまり自殺するかだった。そんな末路を迎えた死体は霧を吹くことが絶対になかったので、大義名分を得たとばかりの殺し合いが始まってしまった。銃を構え、刃物を携え、「私は食べてない」というプラカードを提げる人も現れた。
死体が病を発症しないのは、トリコックスが新鮮な血しか栄養に出来ないからだと後に明らかになった。体外に出るほど成長できないまま血が古びてしまうのは彼らには死を意味していたらしい。また、体外に出る時にはより多くの血液を必要とするらしく、それが霧を吹いた遺体の血が涸れている理由だった。しかし、一斉に飛び出す理由は定かではない。体外を浮遊したトリコックスは命が尽きるまでに別の宿主に寄生するか、そうでなければ死ぬのだと思われた。しかし、あらゆる動物の中で人間だけがオルセン症に見舞われるので、自然の中でどう生存してきたのか不可解だった。
ファンベレロはなるべく新鮮な血液を用意し、トリコックスの様子を観察した。すると十分な成長を遂げたと思われたトリコックスは更なる成長を遂げた。足が生え、身体はシャープになり、イカになった。スニネンの見つけたあのイカだった。そしてそのイカは天の川を作った。墨を吐くように一時も休まず、天の川を作った。それは恐らくトリコックスの卵だと推測された。もはや具体的な個数は分からない。その1つ1つは観察不能な領域にある。それがこうもはっきり見えるほど、数が尋常じゃないのだ。数百、数千、数億かもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます