反撃の狼煙
オルセン症の解明は1979年、オランダにある名門大学の物理学者、マリー・ファン・ベレロの発見で大きく前進することになる。彼女は患者の皮膚に無数の穴が開いていることを発見した(毛穴とは別)。これらはあまりに微小で、高精度の測定器を必要としたことが発見に時間を要した理由だった。無数の穴は全身に及び、その1つ1つは出血に繋がりそうもないし、健常な肉体であればすぐに修繕されるはずのものだ。
何より重要なのは穴の形状である。ほとんどは淵の皮膚がギザギザで、外側を向いていた。明確に、確実に、内側から破られたことを示している。
これは多くの学者を震撼させると同時に、解答を導かせた。
寄生虫
こんな芸当はそれしか無いのではないかと思われた。穴に匹敵するサイズの寄生虫を探すために、またも調査が行われることになった。犠牲者の毛髪や衣服は穴を開けた犯人を濾過器のようにこしとっているかもしれないと期待されたが、実際に犯人が見つかったのは指と爪の間だった。犯人は皮膚を突破出来ても爪の硬さの前に挫折し、力尽きていたのだ。
犯人は頭部に3本の角を持ったような見た目をしており、「トリコックス」と名付けられた。トリコックスは少なくとも扁形動物門に属すると考えられたがその時点では曖昧だった。しかし、寄生虫は宿主を利用して生きている。寄生先が中間宿主であれば殺してしまうのも不自然ではないが、体外の空気中に自ら脱出してしまう理由は不明だった。むやみに栄養の無い空間に出ればそこで命が終わってしまうではないか。
しかし何より感染経路の特定が急がれた。ホーガー親子を始め、感染者の事前の行動が判明しているケースは多かった。
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