カルトの台頭

 その後もオルセン症は突発的に、世界各地で起きた。ユーコン準州程大規模なものでは無いが、発生するたびに100~1500人程度の犠牲者が出た。発生地域の中はアメリカ、ベネズエラ、ソヴィエト、モンゴル、日本、ポーランドなどの北半球以外にも、アフリカ諸国やニュージーランド、サモア、インドネシアなどでも起きている。

 原因不明の悪夢は人の心を蝕み、欲深き者たちの格好の標的になった。救いを説く言葉を上手に並べる狡猾な「教祖」が世界各地に出現し、瞬く間に勢力を伸ばした。犠牲者の中には既存の三大宗教を深く信仰する者も多くいたし、司教クラスの人間にも犠牲が出たとあって信用は堕ちていた。これは宗旨替えさせるには都合が良かった。結果としてこの70年代に生まれた宗教団体は分かっているものだけでも9000を超え、そのほとんどは信者を食い物にした。ただし、ごく一部ではあるが清廉な精神と極めて公平かつ公正に運営された宗教団体もあったことはことわっておく。

 この事態は特に宗教国家にとっては致命的だった。自分たちの信じるものに裏切られたと思い込み、そんな国家への不信感は暴動という形で爆発した。直接オルセン症の犠牲者とは言えないが、この間接的な犠牲者は2万人に及んだ。

 また、不安から精神の均衡を失う者も着実に増加していた。

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