『IT』によせて

ヒガシカド

『IT』によせて

 俺は派遣先に到着した。

「今日はよろしく」

「うっす」

 業務内容は簡単で、ただ立看板を持って客引きをするだけ。派遣先というのもラブホテル近くのキャバクラである。

 俺は雇い主に控室へ案内された。彼は自分の鞄から何やら化粧品を取り出した。

「流行りに乗ろうかとね」

「流行り?」

 彼は俺の前に立ったかと思うと、手早く俺の顔に化粧を施し始めた。約二十分後、俺は不気味なピエロに見事に変わっていた。

「すごいっすね。流行りってあのホラー映画のことっすか、殺戮ピエロ」

「ああ。趣味なんだ」

「嫌な趣味だ」

 ピエロに怯える女の子に興奮するなんて、人間は多種多様だ。

 衣装も良く出来ていて、防寒対策もされている。俺は夜の街に繰り出した。

 

 業務は単純だった。適当に声をかけて、見込みがなさそうだったらすぐに引く。夜中のバイトだから給料も高い。日給二万五千円。

 気づくと二時間が経っていた。ふと背後を振り返ると、店頭に雇い主が座っていた。大方中が暇になって通りを歩く女の子を見に来たのだろう。例の趣味か。

 淡々と働くうちに、勤務終了となった。俺は控室に戻った。

「上がります、お疲れっす。どうですか、女の子たちの良い怯えは見れました?」

「何の話だ?」

「別にとぼける必要ないですよ。さっき表に出てたでしょ」

「あれか。別に女の子を見ていたわけじゃない、君を見ていたんだ」

 なんだ俺のケツを狙っているのか?その方がまだマシだった。彼は素早く懐からナイフを取り出すと、私の胸に突き立てた。

「殺人ピエロを退治したら、私は英雄になれるだろうか。なれる」

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『IT』によせて ヒガシカド @nskadomsk

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