五頁目
だからその時は。
当たり前のように訪れたのです。
(なんで……)
(なん で…… )
すれ違う苛立ちのままに。
苦しみのままに。
憎しみのままに。
衝動に任せて。
彼は。
彼女の。
首を絞めました。
首を。
絞めて。
絞めて。
絞めて。
彼女の命を
奪いました。
苦しそうに喘ぐ彼女でしたが、
最期の瞬間には、笑みを浮かべて、
言葉にならない、感謝の心を、表しました。
「ありがとう」
「殺してくれて、ありがとう」
「いくら想っても、心が少しも通じない」
「こんなやり切れなさと生きていくくらいだったら」
「偽物の言葉でごまかして生きるくらいだったら」
「私は、ずっと、死んでしまいたかった」
「やっと殺してくれたんだね」
「貴方に殺してもらえて」
「幸せです」
「ありがとう」
その心。
その思い。
その意思だけは。
沁みいるように、彼の心へ。
届いたのでした。
さらには、その外へ。
波紋が広がるように、国中へ。
響き渡ったのでした。
ここがまだ沈黙に溢れていた、
みんなが繋がっていた、
あの頃のように。
あの頃のように……。
やがて彼は呟きました。
「ありがとう」
「殺させてくれて、ありがとう」
「君を殺せて、幸せだ」
涙ながらに。
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