またテーブルに一番搾り
樹
非常ベルの妄想
禁止されているものをしてみたくなる、触れてみたくなるのが人間の業だと思っている。
小学生の頃、非常ベルの赤いボタンを押したくて押したくてたまらなかった。
しかもあやつは、「強く押す」などと書いて誘ってくるのだ、あやつは。
あのボタンを押したらどうなるのか、いまだに知らない。
ベルが鳴るだけなのか。
あの四角い扉から消火用の泡とかが出てくるのだろうか。
ググれば一発で分かるのだろうが、なぜだかもったいなくて調べる気が起きない。
本当に押さなければいけない状況には、なりたくないけど。
私はエレベーターに乗るたびに、ワイヤーをハサミで切られる妄想をする。
一階まで急降下したあと、我々はぺしゃんこになるのだろうか。
それとも今どきのエレベーターはそんな状況も見据えて頑丈にできているのかもしれない。
しかし私は遊園地の直下型アトラクションが本当に苦手なので、結果を体感する前に卒倒してしまうんだろうな。
線路に物を落としたら、駅員さんはあの絵のようなマジックハンドを本当に持ってきてくれるのだろうか。
そのためだけに、財布を投げてみたくなる気持ちに駆られる。
絶対やらないけど。
妄想の中では駅員さんが魚釣りのおもちゃみたいに、上手いことマジックハンドで私の財布を拾ってくれるのだ。
パン屋のトングみたいにマジックハンドをカチカチさせてから、ひょいと拾ってくれるのだ。
私は満面の笑みで駅員さんにお礼を言った後。
笑顔でまた財布を線路に投げてみたりする。
大抵の駅員さんは、怒るだろうなぁ。
面白がってくれる人とは、友達になれそうだ。
またテーブルに一番搾り 樹 @zakirish
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