第3話 人狼の館
館の中はとても広かった。天井にはシャンデリアがぶら下がって光を放ち、ロビーには受付と休憩スペースがあって、まるでリゾートホテルのようだった。ただし、中には何人かしかいない。それにしてもこんな館、いつできたんだ…?と思っていると、スマホに着信が来た。いつも見ているニュースアプリからだ。えっと、何々…?
「『人狼の館、全国300ヵ所で同時オープン!』…人狼の館ってこの館だね」林檎ちゃんがスマホの画面を覗き込んできた。最近工事の音がすると思っていたら、この館を建設していたのか。ニュースの記事によると、この館、大手企業が管理しているらしい。でも全国300ヵ所とはいえ、こんな小さな村に作るのはどうかと思う。
「ねえ、祭りとは関係ないけど、せっかくだから人狼やってみない?」林檎ちゃんが誘ってくる。まあ、こういうゲーム形式ならいいかな。というか本来人狼ゲームはこういうものなんだけどね。「うん」と私は答えた。「じゃあ、早速申し込もうか」林檎ちゃんは私を連れてロビーの受付係に申し込みに行った。
* * *
申し込みを終え、ついでに私のゲーム機も預かってもらい、ゲーム開始は1時半と告げられた。スマホを確認すると、今は12時41分。まだ40分以上も時間が余っている。私と林檎ちゃんは休憩スペースのソファーに腰掛けて一息ついていると、入り口のドアが開き、男の子が入ってきた。よく見ると知っている人だった。
「おっ、比奈に林檎じゃん!お前らも人狼ゲームしに来たの?」
「凛くん!ちょうどよかった!一緒にやろうよ!」
「おう、今そう思っていたところだ。申し込んでくるから待っててな」
さっき入ってきた男の子は東雲しののめ凛りん。私達と同じ学校に通う同級生。今年度はクラスが一緒で、元々家が近かった事もあり、よく一緒に遊んだ友達だ。
「よっこらせっと」凛くんは私の隣のソファーに座った。「ふぅ、まさかこんな村に全国展開している館がオープンするとはな」と、凛くんは私が思っていることと同じことを言った。
暇潰しにスマホをいじっていると、いつの間にか1時20分になっていた。「あっ、そろそろ行かなくちゃね。えーと、私達は1号室だって」林檎ちゃんは予約表を確認する。「それじゃ、行くか」私達はロビーを抜け、『1号室』と書かれた部屋に入った。
* * *
部屋に入ると、そこには大きな円形のテーブルと9人分の椅子があった。私達はそのうちの3つに並んで座る。部屋を見渡すと、ロビーと同じく豪華なシャンデリアが部屋を照らしていて、内装もかなり豪華だ。よく見ると、テーブルも所々に宝石が散りばめられている。その豪華さにうつつを抜かしていると、他の人達が部屋に入ってきた。中肉中背の30歳くらいと思われる人や、美しい女性など、見た目は様々だった。そして9人分の席が埋まり、1時半になると、部屋の四隅に設置されていたスピーカーから男の人の声がした。
「皆様、この度は『人狼の館』にお越しいただき誠にありがとうございます。今回の司会進行をさせていただきます木下きのしたと申します。それでは、記念すべき本館での第1回人狼ゲームを開始いたします」
とても興奮している林檎ちゃんをよそに、私はひどく落ち着いていた。なんせただのゲームだ。『本物』をこの目で見たことがある私には興奮など起こるわけがない。
「まず始めに、ルール説明をします。この部屋には9人の人がいます。しかし、その内の二人は人に化けた『人狼』です。これからあなた達には、話し合いを設けて二人の人狼を処刑させてもらいます。そして、村人陣営には心強い能力者がいます。
まず『占い師』。占い師は、夜に誰か一人を占って人狼か否かを知ることができます。村人陣営にとって最も重要な役割の人です。
次に『騎士』。騎士は、夜に誰か一人を護衛することができます。護衛された人は、人狼に襲われても死亡しません。しかし、同じ人を2日連続で護衛することはできず、そして自分自身を護衛することもできません。
そして『霊媒師』。霊媒師は、その日に処刑された人が人狼か否かを知ることができます。人狼の残り人数を唯一知ることができます。
一方、人狼に味方する村人もいます。『狂信者』です。狂信者は、人狼陣営が勝ったときに一緒に勝利扱いとなります。ちなみに、狂信者は人狼が誰か分かりますが、人狼は狂信者が誰かを知りません。
最後に『人狼』は、夜に誰か一人を襲撃します。二人以上いる場合、話し合って決めてもらいます。
まとめると、この部屋には
村人 3人
占い師 1人
騎士 1人
霊媒師 1人
狂信者 1人
人狼 2人
がいます。
そしてそれぞれの人には専用の個室を用意しております。夜のターンはそこで過ごしてもらい、役職に応じた仕事をしてもらいます。夜のターン中は、部屋の外へ出ることはできません。
ここまでがルール説明です。皆様、テーブルの中に入っているタブレットを取り出してください」
テーブルの下を調べると、引き出しのような場所にタブレットがあった。私はそれを取り出す。おそらくこれで役職の仕事を行うのだろう。
「それではそのタブレットに、一人一人役職を表示していきます。他の人の役職を見たり、見せたりすると即失格となります」
木下がそう言うと、タブレットに文字が表示された。
「あなたの役職は『占い師』です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます