世界を救っても正妻戦争は終わらない

第9話 元奴隷であるアシュラの親代わりになりたい（３）

　ウィーベルでは常に屋台をやっている。

　毎日が日本のお祭り感覚で、豊富な種類の食べ物屋さんが並んでいる。

　食べ物の文化自体はそこまで変わってはいない。

　動物モンスターの肉や、スライム系のモンスターの飲み物などのバリエーションが豊富ではあるが、それでも、日本の方が圧倒的に多かった。

　日本は日本食以外にも、イタリア料理やフランス料理とか様々な国の食べ物が食べられるのが良かった。

　運搬技術が発達していない異世界だと、地域独自の食文化に頼るしかない。

　だから日本食の開発にも着手しているのだが、まだできていない。

　味噌や米など、普段は何とも思わなかった食事が無性に恋しくなる時がある。

「あふぃ」

「もっとフーフーしてから食べようなー」

「ふぁい」

　焼き鳥みたいなやつと、焼うどんを買った。

　焼きそばの方が嬉しいのだが、どうやらこの世界だと焼うどんの方が支流らしい。

　焼うどんはうまいけど、祭り感覚なら焼きそばの方がそれっぽいんだけどな。

　それから、焼き鳥みたいなやつは、鳥を使っているんじゃなくて、火蜥蜴というモンスターを使っている。

　焼蜥蜴っていう料理名らしい。

　火蜥蜴は触感や味がほぼ鶏肉なので、ジューシーで美味しい。

　日本にない食材があるのが、異世界って感じがする。

「賑やかだなー」

　街中は賑わっている。

　活気があふれているのはいいことだが、それと同時にデメリットがある。

　人の目が多いということだ。

「最初から、そうやって変装していればよかったんじゃないですか？」

「悪い、悪い。忘れていたんだよ。それに、結構これ疲れるんだよなあ」

　俺は変装をしていた。

　さっきの学園みたいに人が寄ってきたら、買い物すらできない。

　ということなので、俺は『フェイスフェイク』という錬金術のスキルを使って顔の皮膚をいじって顔を変えた。

　俺だけでなく、アシュラもそれなりに認知されているかもしれないので、アシュラの顔もついでに変えておいた。

　『フェイクフェイス』というスキルは、常時スキルを行使していないと、元の顔に戻ってしまうので疲れてしまう。

　スキルを使うと、体力や精神力が削られていくのであまり長時間持続して多用しない方がいい。

「……みんな、幸せそうでいいですね」

　アシュラがまるで眩しいものでも見るかのように、眼を眇める。

　みんなが羨ましいのだろう。

「それが当たり前なんだよ」

「ユウシは幸せですよね？」

「まあ、な」

　メイドに死に物狂いで追いかけられていることが幸せかどうかは判別しづらいが、それ以外は幸せなのは間違いない。

　元の世界じゃ学校に居づらくなって不登校になった。

　両親とも口を聴かなくなった。

　この世界に来てから、戦いに身を費やす毎日だった。

　それに比べれは、今はきっと幸せだ。

「ユウシの周りは幸せで溢れています。私も、たまに幸せなのかなって思う時があります」

「幸せならいいんじゃないの？」

「でも、今でも思うんです。私なんかが幸せになっていいのかなって」

「そんなの――」

「おっ、と。てめえら何してんだあ!!」

　話している最中に、男がぶつかってきた。

　持っていた焼うどんが俺と、男の服にかかってしまった。

「もっと前を向いて歩けよ、クズどもが。俺の服が汚れちまっただろうが！」

「そうだぞ、てめえ！　弁償しろや！」

　うわー。

　テンプレな絡み方だー。

　ガラの悪い二人組に出会ってしまった。

　しかも、俺にまで焼うどんがこぼれているんだけど、俺の服は弁償してくれるんだろうなあ。

　とか言いたかったが、聞く耳持たないだろうな。

　服の上からでも筋肉の膨らみが分かる。

　そこそこ強そうだ。

　冒険者といったところか。

　平和な世界になってしまったせいで、力を持った冒険者が手持無沙汰になっているとよく話を聴く。

　今でもダンジョンに潜ったり、薬草採取したりする冒険者はいるが昔のような熱気はないようだ。

　ここら辺は冒険者ギルドが活発に活動している訳でもない。

　力を持てあましている荒くれ共が手っ取り早く小銭を稼ぐために、難癖をつけているんだろう。

「平和な世界になっても、トラブルが全部なくなるわけじゃないんだよなあ」

「なにゴチャゴチャ言ってんだ！　金出せや！」

「そうだぞ！　このお方がどれだけ強いのか知らないのか!!　Ｃ級冒険者のマンサ様だぞ！　ここらへんじゃあ『返り血のマンサ』で有名なんだぞ！」

　……知らないんですけど。

　とりあえず汚れで怒っているみたいだから、処置をするか。

「『ウォーターボール』『ホットウインド』」

「なっ――」

　攻撃のための魔術スキルではない。

　球体の水が出てくるスキルと、ただ暖かい風がでてくるだけのスキルだ。

　出力を意図して弱めれば、水洗いしてドライヤーで乾かした感じだ。

　汚れが付いたばかりだったから、ある程度綺麗に汚れ取れて良かった。

「はい、これで少しはましになっただろ」

「ふ、ふざけんじゃねえええ！　謝れ屑があ!!」

「ぶつかってすいませんでした。じゃあ、行くぞ、アシュラ」

「は、はい……」

　スタスタと男達の横を通り抜けようとすると、肩に手を置かれる。

「ふ、ふざけんじゃねえええええええええ!!」

　拳を繰り出してきた男の前で、焼蜥蜴を上に投げる。

　自然と視線が上にいったところで、俺は瞬時に拳を男の腹にめりこませる。

「ごほっ――」

　ドズゥン、と一発で男が倒れる。

　誰にも俺が攻撃したことが見なかったはずだ。

　上に注意をひきつけられなかったとしても、あの速さの突きだ。

　何が起こったか分からなかったはずだろう。

　アシュラには見えていただろうけど。

「立ち眩みかな。そっちの人、助けてあげて」

「あ、兄貴、兄貴いいいいいい！」

　もう一人の人に介抱を頼んであげて、俺達はその場を後にする。

　勿論、落下して来た焼蜥蜴も無事にキャッチして食べた。

　人が集まりだしたら、また面倒事が大きくなりかねない。

　さっさと退散するに限る。

　誰にも分からないように攻撃したのは、あとで恨みを買わないためだ。

　あー、嫌だ嫌だ。

　あの辺には近寄らない方がいいかもしれないな。