第10話 元奴隷であるアシュラの親代わりになりたい(4)
「うわー。シミになりそうだな」
服にうどんの小さいシミができそうだった。
やっぱり、水洗いじゃなくて、石鹸とか洗剤とかじゃないと無理か。
家に帰ってからすぐに洗濯した方がよさそうだ。
「あれなら、俺にやられたって分からないだろ?」
「すいません。きっと、私のせいですよね……」
アシュラが首を垂れる。
彼女の頭の上には角が生えてある。
半分鬼の血を引いているからという理由で、アシュラと一緒にいる俺に難癖をつけてきた可能性は確かにある。
大人になれば自分の意志で角を隠すこともできるらしいが、アシュラにはまだできない。
だから、こういうトラブルが起きる可能性がゼロとはいいきれない。
魔王との戦いで全ての種族は結束した。
そのおかげで、差別意識はかなり薄れた。
だが、今でも人間の間には差別意識があるのだ。
「そんな訳ないって。ああいう奴らは誰でもいいからちょっかいを出して、金が欲しいだけなんだから。俺が元いた世界だって犯罪率は減っても、完全にいじめや差別、犯罪をこの世から消すことはできなかったしな」
「そうなんですか……」
「他人を食い物にしようとしたり、害を及ぼそうとする奴はどんな世界にもいるもんだ。大切なのは忘れることかな」
「忘れる?」
「そう。今、辛い事や悲しいことがあって、圧し潰されそうになっても、それを乗り越えるだけの力を成長して手に入れるんだ。それまでは忘れてしまうしかない。そうじゃないと、死にたくなるからな」
子どもの頃は体も心も未成熟で、小さい出来事でも圧し潰されそうになる。
俺は死にたくなった。
それでも、こうしてまだ生きているのは、きっと大人になって心も体も強靭なものになれたからだ。
「私は、大人になれますか? もっと強くなれますか?」
「なれるよ、きっと」
「でも、私は、私を信じられることができないんです。私は弱いままで、いつまでも子どものままなんじゃないかって、焦っちゃうんです」
アシュラは元々奴隷だったこともあって、自分に自信がない。
俺だって大層な口を利けるような生き方はしていないけど、同じような悩みを持っていた自分としては、元気づけてあげたい。
「自分のことが信じられないなら、俺の言葉は信じられるか?」
「……ユウシの言葉?」
「ああ、お前がお前自身のことを認められなくても、俺はお前のことを認めているんだよ」
俺はアシュラがどれだけいい奴かってこと知っているつもりだ。
灯台下暗しっていうけど、アシュラは自分のこと分かっていない。
「……ありがとうございます。私、ユウシのことなら信じれます」
アシュラの瞳から涙がこぼれている。
さっと、俺が拭いてやると、笑ってくれた。
「さっさと城に帰ろう。俺も汚れた服はすぐに脱ぐなきゃ」
「あ、あの……」
「ん?」
アシュラは躊躇いがちに、とんでもない提案をしてきた。
「一緒にお風呂に入りませんか?」
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