#4  朝飯前の発明



 T博士は何に付けてもムダをなくしたがる人だった。

 ある日、朝食を摂っていた彼は急に億劫な気分になった。

その時、彼の右手には箸、左手には納豆があった。そう、とうとう博士は、納豆を混ぜるのすら面倒になったのである。

「なんとかこのムダを短縮できないものだろうか」

 考えた博士は、食事もそこそこに終えると早速発明に取りかかった。幸か不幸か、博士は天才だったから、大抵のムダは短縮することができた。今回も実にその日の内に自動かき混ぜ機なるものを発明してしまった。

さて、一つのものを産み出したらそこで終わらないのが天才である。彼は今まさに発明した機械を見て思った。

「うーむ、納豆をかき混ぜるだけではどうもムダが多いな」

 T博士は早くも、卓上に置かれた発明品の改良に取りかかった。どうせ場所を取るのならばもっと大きくしてしまって、この家のいろんなものを一緒に回してしまおう。そうすればムダは減るはずだ。

 そうして、まずは洗濯機、次は電子レンジ。はては子どものプラレールに至るまで、最終的には博士の家の全ての回転がその機械の内に取りまとめられた。

「よおし、これでずいぶん効率が良くなったな」

 博士の家の発明は、すぐに近所でも評判になった。

 もちろん、ほとんどは博士の無精ぶりに呆れつつもその能力を称賛するものではあった。しかし、中にはあまり気持ちのよくない連中というのも居て、やれ電気代がもったいないだとか、これだから博士は運動不足なんだとか、そんなやっかみを込めた皮肉なんかが一緒に囁かれた。

 博士は天才であった。だからこそ、そうした声に対しても人一倍敏感であった。なるほど、そんな風に言われるのであれば、自分としては解決しない訳にはいかない。

 ひとまず博士は自動かき混ぜ機の動力源を、家中で無駄になってしまっている電力で賄おうと考えた。沸かしたお風呂の蒸気、トイレを清掃する水流、コンピュータの発熱…探してみると意外とあるものだ。これらをできるだけ無駄にせず、かき混ぜ機に供給するシステムを構築した。

 しかし、すべてを補ってしまうようには設計しなかった。人々に指摘されたのは、電気代と運動不足だ。これらを一挙に解決してやらねば、彼らをギャフンと言わせることはできない。博士はそう考えていたのである。

 そこで、かき混ぜ機を稼働させる最後の一押しを、博士は発電用自転車で稼ぐことにした。

 これでこの機械を動かすためには、博士はこの自転車をこいで絶対に運動しなくてはならなくなった。運動量も適切になるように調整した。自分までもムダのない機構に組み込んでしまうとは。博士は自身の才能の底知れなさに一人ほくそえんだ。


 さて、全ての機構が完成した翌日、博士は妻の呼び声で目を覚ました。

「あなた、朝食よ!」

 博士はそれを聞いて、枕元に置かれた自転車を見た。かき混ぜ機を動かすためにはこれをこがなくてはならない。

 しかし、一つ困ったことがあった。博士は寝起きだ。それなりの運動をするには、少しエネルギーが足りない。そこで、博士は叫んだ。

「まあ待て。まずは腹ごしらえだ」

二度朝食をとるムダに博士が気が付くのは、もう少し先のことであった。

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