#2  賢い買い物


「また品切れか...」



男はがっくりと肩を落とし、その店を後にした。

男が探していたのは彼の愛好する駄菓子だ。幼い頃から今まで、彼はその駄菓子にだけは目がなかった。

「しかし、最近売っている店が減ってきた気がするぞ」

結局、男がその駄菓子を見付けたのは三軒先のスーパーだった。

やっと見付けられた喜びと、この商品の将来に対する危機感から、男は店舗にあったそれをすべて買い占めた。

それからというもの、男はそれが切れるたびに少し離れたそのスーパーへと足を運び、再び買い占めるということを繰り返すようになった。おかげで、その商品は常に品切れが続いた。子どもたちはやがて、別の駄菓子を好むようになり、その商品のことを忘れていった。



ある時、男は出張で東北へ出かけた。

わずか2日ばかりの滞在だったが、日頃の癖とはおそろしいものですぐにアレが食べたくなった。

方々探し求めたあげくに小さな商店で見付けたそれを、やはり男はすべて買い占めた。消費に貢献してると思うと、なんだか良いことをしている気分にすらなった。

困ったのはいつものスーパーである。来るはずの日付になっても男は来ない。買う子どもも居ないので、やがて賞味期限が切れ、スーパーは大損を出してしまった。泣く泣く店は、その商品の取り扱いを止めた。



しばらく月日が流れて、とある会社のデスクには、新聞を片手に涙を流す男の姿があった。

「何を泣いているんだ」

「好きだった商品の生産が終わるみたいなんです」

見かねて声をかけた上司に、男はそう返した。

「それならば、君が買い支えてやればよかったじゃないか」

上司は、あまりに傷心している男に知恵を貸してやるつもりで言った。しかし男は、上司の言葉にかえって強く頷いた。

「そう思って、出張のたびに買い占めてたんですが」

実に、賢い買い物とは難しいものだ。

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