第2話

「狐のきょん2」 −猫耳の少年−



さて、何から始めることにいたしましょうか?


先に書き記した物語。

最初に語ったはなしでは、あたらしい船が現れるところまででございましたな。


船に乗っていたのは、一方ひとかたはわたくしの友のぱいろん。月に出かけられている猫又さまのそくにございまする。

そして、もう一方は彼の拾い子、猫耳のわらべでございました。


友ぱいろんの申すところでは、じゃっくの立っておりまする街にて拾われたとのこと。


名は無く、数字かずだけが与えられておりましたそうで、

はいぶりっどひゅうまんえいちつーけものや鳥などとの合いの子が生まれる場合には、そうするのが当たり前なのだそうでございまする。


そういう子らは、月や星よりここ、じゃっくの街に現れる人のために作られる仮そめの体として育てられ、

魂だけの人は、

そういった新しくつくりし体に、自分たちを入れ、街に住むのだそうでございまする。


育てられた子らは、その人らの仮そめの体であったり。

この世界では禁じられておりまする、狩りの獲物として、本来の獣のように狩られたり。

獲物として食されたり。

一夜ひとよなぐさみ物とされ、傷つけ、殺されたり捨てられたりする。

友ぱいろんが、そう語っておりまする。


人の器として育てられ、おもちゃのように傷つけ、壊され、食われ、人が人を殺す街。

じゃっくの立つ街は、なんと物騒な、この世に現れた地獄のようでございますな。


極楽浄土より捨てられた者共の住む街なのでございましょうか。


あやかしどもも、人と共に暮らしていると聞き及んでおりまするが、

地獄のような街に住むあやかしどもは、

さぞや血にくるい、人死ににて狂う、悪鬼のごときあやかしに、ございましょうか。


我が友は、死にかけていた猫耳の童を拾い、助けたそうでございまするが、

友ぱいろんは、ぱいろんが母、猫又さまが務めを受け継ぎ、荒事をつねとする身ゆえ、童とはずっと居られぬ。


そう申し、我がもとに預けることを願うたのでございまする。


そういう経緯いきさつになりもうしたのは、人の身の童に付く猫耳にあるのではないかと思うておりまする。


なんなれば、

わが友は、猫又さまであるあやかしと人との間に生まれた身ゆえ。

猫との合いの子であり申す、人の童の身の上に思うところがあったのかと、

そのように考えておりまする。



そうそう、

友ぱいろんは、童に仮の名として母、猫又さまの名、

昔、えれきの世界にて使われておりました仮そめの名、はんどると申しておりましたが、

その名を差し上げられたのでありまする。


仮の名のつもりが、童がいたく気に入り申したようで、

この度、正式な名付けと相成った次第となり申した。


名をにゃん丸、黒髪くろがみ黒耳のわらべにてございまする。


そして、我が生涯で初の弟分であり、養い子。

我が初の、人の友でございまする。



この、さびしい宇宙そらの港も、少しにぎやかになるようでございまする。



  −◇◇◇−


小さき友、にゃん丸は、近ごろはわたくしのそばまで来て、眠るようになり申しまする。


たまさかには、わたくしの背に身を寄せることもあり、なんともくすぐったき思いになることもありまするな。


なんなれば、

わたくしが幼き頃、相方、姉さまの背に寄りて眠ったこともありますれば、

なんともなつかしきこと、恥ずかしきことしきりにてございまする。



にゃん丸は、ぱいろんと離れてしまい申した頃には、

港のどこか、暗く狭きところにて潜むことがたびたびありますれば、

きつねのわざにてしるしを付け、港よりの出奔しゅっぽんや身体のおかしき折りには判るようにし、

自由にさせておき申した。


ちかごろは、我が目の届くところにて、こちらをうかがうようになりまする。


そうしてわたくしがする仕事をのぞき、うかがい、

わたくしが居なくなるのを見計らい、

そばに寄りて、まねをしているように存じまする。


普段はそのように、自由にふる舞わせておりまするが、

あそびが過ぎて、汚れてしまい申したときには別で、

しっかとつかまえ、

嫌がるにゃん丸を、引きずりながら風呂へと向かい、

しっかりと洗い申しまする。


初めのころは、暴れて仕方なしであった、にゃん丸も、

ちかごろは、じっとがまんして洗われるがままとなり申し、

そのような様と洗いすすがれた後の、

ぷはっという吐息と共にする表情がなんとも愛らしく、こらえきれずに抱きつくと、じたばたと逃げようとする様も含め、

そのさまがなんともかわいらしく、愛らしく、そのように思えてきておりまする。



にゃん丸は黒髪が映える白き柔肌で、

まるで童女のごとく、健康できれいな、少し妖しき魅力ある姿となり申した。


初めの頃は肉少なく、薄き、骨の判るかのごとき姿にてごさいましたが、

なんともはや、変われば変わるものでごさいますな。


人というのは不思議な、なんともいえぬ魅力を持つものらでございまする。


あやかしのしょうは変幻自在。

姿形、老若男女、いかようにもなり申す。


自らの思い、かたわらの人の思いにて変わり、姿を保つものでありますれば、

わたくしなども生まれし折りには、

小さき、きつねの童女であったと聞き及んでおりまする。


今のように姿を決め、男の姿へとなりもうしたのでございまするが、

力たらぬわたくしでは、成人の男子の姿へは遠く及ばず、

恥ずかしながら、元服前の童子がごとき姿のままにてございまする。



人の子の育つは早きもの。

養い子もわたしの背と近きところまで来ておりまする。


そのうちに我が背を抜き、成人となり、

老い、土へと帰るのでございましょう。


それまでの間、にゃん丸とはたくさんの楽しき日々を、二人して過ごして行きたいと存じまする。

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