みらいばなし きつねのきょん

みなはら

第1話

 「狐のきょん」 −宇宙ポートの狐−



時は未来さきの地球のことでございまする。


わたくしはきょん。

この稲荷のやしろもりでございまする。

日の本の、かつて関東と呼ばれた平野にございます、宇宙そらの港と呼ばれる古い建物と土地。その北西を守護するところへとひっそりと建てられた社を、ひとりにて守っておりまする。


なぜ、きょんと呼ばれておるのかと申しますと、

幼きころ、こんこんと鳴けず、きょんきょんと鳴いていたからだということでございまする。

幼きころの事など、とんと覚えてはおりませぬが、

わたくしよりも年が上の相方がそんなことを申しておりましたので、今もそう名乗らせていただいておりまする。


その相方は今、主人の供人として月への旅へと出かけている最中にて、わたくしが留守居という大役をたまわっている次第にてございまする。



かつてはこの港も人群れで賑わっておりましたということでございまするが、今は訪れるものとて無く、寂しいかぎりでございまする。


昔の船は港から海へ出ていったものでございまするが、

昨今は港から天へ上がり、星へと向かうのが船ということになったようでございまする。

世の中はいろいろと移りゆくものでごさいますな。


ここではなく、赤道しゃくどうという土地では、

船ではなく、「じゃっく」とか、「びいん・すとおく」とか申すもので宇宙そらへ上がっているとか。

相方の友である猫又さまが、そのように申しておりました。


相方は、ものの判らぬわたくしめに、「えれべーたあ」だよと判りやすく申しておりまするが、えれべーたあは階段のように建物の中をうえしたに移動する廊下でございますから、

廊下だけの建物などございませんので、ようわからんことばかりでございまする。


それとも、天よりも高くそびえる廊下だけの建物があるのでございましょうか?

なれば、ほんにまあ、驚くことばかりでございますな。


それに今は「月」の事を月と呼ばず、「そりっど・わあるど」と呼んでいるそうでございまする。


ほとんどの人が魂となり果て、えれきと石造りの世界にて住んでいるとか。

魂だけとか、ほんに極楽浄土のようにございますな。


地球のことは「故郷ほうむ」と呼び、「えれべーたあ」の辺りには、まだ人が住んでいるそうでございまするが、

ほとんどの人は魂となり、月や星へと住んでいるということでありまする。


地球という地は、動物とあやかしへと明け渡され、「ゆうとぴあ」と称する、いきものたちの楽園へとなったということでございまする。


人群れでひしめいていた昔とくらべて、確かに動物たちは増えたのではございまするが、

あやかしはかえって少なくなり果てておりまする。

なんなれば、

本来あやかしなるものは、人の思いをうけ育つものでございまして、

人の居ないゆうとぴあなる地では、あやかしは生まれづらく、また生まれても力よわく、育つことも叶わず、消えてゆくものが大半でございまする。


なんとか生まれ出でたわたくしめの力も、相方には遠くおよびませぬ。

それに相方も以前にくらべ、力が衰えたとよくこぼしておりまする。


でありますれば、力あるあやかしたちは、人と共に星ぼしをわたる旅へと出かけ、

この地に残るあやかしの数は減るばかり。


そのことを重くとらえた相方の主人さまが、今回重い腰をおあげになり、月への探訪と相成ったしだいにございまする。


猫又さまの夫君も、娘ごと共に星ぼしへの旅へと出かけられ、まだ帰らぬとか。


あやかしを助けるすべを求めて、たくさんの方々かたがたがいろいろと動かれているということでございまするが、

わたくしめにできるのは、ただただ祈ることばかりにてございまする。



ほぅ、

ひさかたぶりの船の到着にございまする。

もてなしの準備をしなければなりませぬ故、これにて失礼いたしまする。


はてさて、どんなお客さまが到着なさるのでありましょうか。

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