葡萄月十五日



 カーティスが王宮にいることは知っていたけれど、お兄様の魔力が妨害して千里眼の精度が落ちてしまって会話の内容が途切れ途切れにしか聞き取れなかったから部屋への侵入を試みたの。正直高いところは怖かったし、爪が少し傷ついてしまったからこんなことはあまりしたくはないわ。だけど、おかげでカーティスに抱き上げてもらえたのだもの。たまにはこういう冒険もしてみるものね。

 最近お兄様がカーティスに求婚を繰り返していたことは知ってはいたけれど、彼がちゃんと断ってくれているようで安心したわ。

 でも、カーティスってとっても照れ屋さんね。それともプロポーズの催促ははしたないことだったかしら? 

 だけど愛しているのだから気持ちはちゃんと伝えないと。でしょう?

 なんだか今日はとってもカーティスと距離が近づいた気がするし、彼がじっと私の目を見つめてくれたとき、とても鼓動が早まった気がするの。そう、初めて会ったあの夜みたいに。

 きっとこれが恋なんだわ。目が合うだけで鼓動が駆け足になって、呼吸が苦しくなるようなこの感覚。彼と出会うまで知らなかった。きっと見つめ合ったときの彼もそうなのね。反応が少し遅くなった気がするの。

 今日のカーティスは珍しく自宅に仕立屋を呼んでいたわ。夜会のための服を新調するつもりみたい。本当に珍しいわ。彼はいつも周囲を引き立てるために流行を三周は遅れた服を着ているもの。いいえ、公式の場では二つ前の流行くらいね。

 私は今日宝石商に新しい首飾りを注文したのだけど、カーティスの新しい礼服と合うかしら? 少し不安よ。でも、きっと彼の好みだと思うの。勿論、ドレスも少しタイトなデザインにする予定よ。それに爪もきちんと磨き直さないとね。

 そういえば最近は爪に小さな宝石を飾るのが逸っているらしいけれどやはり専門の職人を呼ばないとできないものなのかしら? 興味がないと言ったら嘘になるけれど、爪に宝石なんてつけて重くないのか少し疑問だわ。それに、手の装飾が多すぎると、踊るときにカーティスを傷つけてしまわないか不安だもの。やっぱりなるべく清楚に見せるべきよね。

 それにしてもお兄様はどうかしているわ。お兄様は男性なのに同性のカーティスに求婚するだなんて!

 単に私に嫌がらせをしたいだけなのかしら? でも、お兄様の性格上そう考えるのは少しおかしい気もするわ。確かにお兄様は本気なのか冗談なのか区別がつきにくいところがあるけれど、なにも考えなく問題を起こす方ではないもの。

 ああ、またお見合いの肖像が届いたわ。私はカーティス以外に興味がないのに。

 どうも、他国のきらきらした王族は苦手よ。

 ああ、あの無駄にきらきらした王子まで夜会に来るなんて考えただけで気が滅入るわ。お父様はああいうのが好みなのかしら? 私はああいう人は苦手なのに、どうしてもあの方とくっつけたいように思えるの。それは絶対に嫌。私にはカーティスしかいないのだもの。

 もしもの時は、きっと駆け落ちしてくれるわよね? カーティス。

 確かに王宮の騎士や隠密が追ってくるかもしれないけれど、そういうときは私の力を使えばきっと逃げられるわ。

 もしもの時は一番厄介なお兄様を一番最初に片付けておくから、カーティスはなにも心配しなくていいわ。

 カーティスの為なら、他の全てを棄てることだって簡単なんだから。










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