第24話 幕間・フェルが語るこの世界の話 船員と騎士の乗り手の仕事

 やあ、ごきげんよう。あたしはフェルメール。シュミット商会に仕える地の精霊人だ。

 一応、シュミット商会の護衛船員長、ってことになってる。こう見えても強いんだよ?


 精霊人は、もう知っているかもしれないけど、体の一部が動物になってる。

 あたしはオオカミの耳と、あまり見せてないけど尻尾が生えてる。

 ディートはネコミミ?って聞いてきたけど、違うからね。ネコミミの子もいるけど。

 なんかネコミミに反応してたけど、なにかあるのかな。


 ちなみにあたしたち精霊人には人間でいうところの姓はない。名乗るのは勝手だけどね。

 精霊人は皆で一つの家族。だから姓は必要ないんだ。親からは名前の一部を受け継ぐ。

 あたしの親はフェリオとアリサール。あたしはその一部を貰ってフェルメールってわけ。


 店主は今出港の準備で忙しいので、あたしが代わりにこの世界について少し説明させてもらうね。

 あたしの仕事にも関係ある、飛行船の船員について話すよ。


---


 あたしは騎士には乗れない。護衛船員だ。

 船員には航海船員と護衛船員がいてね、航海船員は船を動かす為に働く。

 例えば、壊れた場所を修理したり、ロープを張ったり、貨物を運んだり、騎士が戻ってきたときにロープで係留したり、エーテル炉の管理をしたり、とまあ船を動かすことについて、なんでもやる。


 あたしたち護衛船員は船を守るために戦うのが仕事。海賊とかが襲ってきたときには、あたしたちが先頭に立つ。

 でもあたしだって船を動かす為の知識が全然ないわけじゃないし、航海船員だって

 いざとなれば戦いに参加するけど。

 だから結構境目は曖昧なんだ。どっちが得意か、ってぐらい意味かな。


 船員はあたしみたいに商会に専属で雇われてるのもいるし、航海ごとに雇われるのもいる。

 航海ごとに雇われてるのは、普段は港湾地区の酒場とかに屯してる。で、商会が航海のときに募集を掛けたらそれに応募するわけ。

 船員を全部丸抱えしてる商会はフローレンスにはほとんどないと思う。だから、航海ごとに雇われる船員の需要は必ずあるんだ。

 もちろん働きが認められれば、どこかの商会の専属になれることもあるね。


 どっちがいいか、っていうのは難しいんだけど。

 実は航海ごとに雇われる方が一回当たりの実入りはいいんだ。だから腕は立つけど、ずっとどこかの専属にならないって奴もいるよ。

 でもやっぱりどこかにきちんと雇われてた方が、お給金をきちんともらえるから、いいよね。明日のご飯に困ることはないし。


 ディートは、やっぱりふりーえーじぇんとはつらいよな、って言ってたけど意味が分からなかった。

 あの子はかわいいけど、時々良くわからないことをいうよね。

 辺境出身だっていってたけどその故郷の言葉なのかな、


 船に乗らない人には、あたしたち護衛船員が何をするかって結構分かりにくいと思う。

 海賊は大まかに分けると、騎士を使って強襲してくるか、こっそり飛行船に上を取ったりして直接船員を送り込んでくるかのどっちかのやり方で襲ってくる。

 ただし、飛行船は大きいからね。

 こっそり近づいて、直接人を送り込む、ってのは結構難しいんだ。

 店主が前に襲われてたけど、あれは例外だね。

 騎士の数をそろえられない規模の小さな海賊は、直接攻撃してくることもあるかな、という感じだと思う。


 あたしたちの仕事は万が一船に侵入された時に戦うことだけど、今言った通り、船に直接海賊が攻め込んで着ることってあんまりないからね。

 そういう意味では護衛船員の華々しい活躍の場ってのはあんまりないんだ。


 あたしたちの主な仕事はむしろ見張りとかの地味な作業だね。

 船の四方や上部に設置された見張り台に立って、エーテルの反応を感知するガラスを使った望遠鏡で、海賊の飛行船や騎士が近付いてこないかを警戒するんだ。

 エーテルが感知できるなら敵を見つけるなんて簡単だろ、って思うでしょ?

 でもこの世界では月の光にも雲にもエーテルは含まれてる。

 だから、その中から敵を見つけ出すのは結構大変なんだよ。


 騎士は飛行船よりはるかに速い。

 見張りはより早く敵を見つけて、より早くこっちの騎士を送りださないといけないんだ。

 敵が近付けば近付くほどこっちの船の航路は妨害されやすくなるし、被弾だってしやすくなる。

 騎士の乗り手としても、敵に距離を詰められたら、飛行船を守りつつ狭いスペースで戦うことになるから不利になるしね。


 だから、見張りは敵を見つける速さが命。

 見張りの技量が船の命運を左右することも珍しくはないんだ。

 それに、ふきっさらしの見張り台は、ほんとにつらいよ。体の芯まで凍えそうになる。

 風に吹き飛ばされないように命綱も手放せないしね。

 そんな中でも周囲への警戒は怠らず、敵を見つけなきゃいけない。結構大変なんだ。


 じゃああたしたちが見張りとかをしているときに騎士の乗り手が何をしてるかっていうと、もちろん航海のための作業はしてない。

 それに見張りとかだってしてないよ。

 騎士に乗るだけ、いつでも乗れるように備えをしておくだけ。


 でも、楽そうか、というとそうじゃない。

 さっきも言った通り、敵が近づいてきたときは、一秒だって早く迎撃に出なくちゃいけない。

 海賊はやっぱり夜に襲ってくることが多いから、騎士の乗り手は夜は寝られない。

 夜通し、万が一の襲撃に備えて起きていなくちゃダメなんだ。


 防寒着もずっと着たままじゃないといけない。

 文字通り、敵が来たときには騎士に飛び乗れるくらいじゃないと。

 出撃するまでのわずかな時間だって、船の運命を左右することがあるんだからね。


 騎士がやられたら、船の運命は事実上ついえた、といってもいい。飛行船の大砲じゃ敵の騎士にはまず当たらないからね。

 だから騎士の乗り手は、少しでも早く出撃し敵を迎え撃つ、そのことを最優先にするし、船員もそのためにサポートするんだ。


 これであたしの話はおしまい。あたしたちが船でどんな仕事をしているか、少しはわかってくれたかな?

 騎士が二機そろったんで、あと何日かで久し振りの出港なんだ。

 陸の上にずっといると体がなまっちゃうからね。海に出れてうれしいよ。


 じゃあ、次も会えたらいいな。またね。

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