15話 日常!帰ってきたいつもの日々

 いつもと変わらない朝、いつもの音楽で目を覚まし、同室のレネと何でもない話をしながら支度する。


 ここに来て1ヶ月ほど経ち、すっかり寮の生活にも慣れ、この流れが日常となっていた。


「そういえば、昨日も調べたい事があるからって街に出掛けてたけど、いつも何を調べてるんだ?」


 俺は前から気になっていた疑問を、鏡の前で寝癖と戦っている最中のレネに聞いてみた。


「あー。まぁ、ちょっとね⋯⋯」


 レネは手を止めると、歯切れ悪く答える。これは、彼女が答えたくない質問をされた時にする返しだ。


「そっか。で、見つかったのか?」

「いやー手掛かりなしだよ」


 落ち込んだ様子で言うと、寝癖直しを再開した。


「俺も探すの手伝おうか?」

「ううん、大丈夫。ありがとね」


 なかば予想通りの答えが返ってきたので、俺はもうその話題に触れるのを辞める事にした。


 お互いの準備が終わり⋯⋯と言ってもレネは"朝ご飯を先に食べる派"なので、寝間着のままだが⋯⋯廊下に出ると、いつもの如くルーイが立っている。


「おはよルーイ」

「⋯⋯おはよ」


 ルーイの"監視"にも慣れた俺は、軽く挨拶を交わす。


 だいたい最初に集まるのはこの3人だ。次にバニラがやって来て、ナナカ、セリアと続く事が多い。


 1ヶ月経ちいつの間にか、準備が出来た者から廊下に出て、全員が揃ったら一緒に食堂に行く、という暗黙の了解ができていた。


「ご主人ー!!」


 いつも元気いっぱいのバニラが、出てくるなり俺に飛びついてくる。


「よしよし。バニラおはよう」

「おはよーだゾ! ルーイもレネもおはよーダ!」


 俺に抱きついたまま、嬉しそうに2人と挨拶を交わす。


「セリアはまだか?」

「まだだナー。セリアはいつも準備遅いナ」


 とりあえず重いので、くっついてるバニラを剥がした。


「まぁ、セリアはお嬢様みたいだからな」

「あ、やっぱりセリアってお嬢様だったんだ」

「多分な?」


 レネは納得したような顔をする。 

 

「オジョウサマ? あーそういえば、セリアの家にいた人も、セリアの事そう呼んでタ。だからバニラ、違うゾ? セリアの名前はセリアだゾ? って教えてあげタ」


 バニラは思い出したように言うと、「撫でる案件カ?」と、訳の分からない事を言って俺に頭を差し出してきた。


「いやバニラ。お嬢様ってのは名前じゃない。お前も、俺の名前はライなのにご主人って呼ぶだろ? それと一緒だ」


「そうなのカー。じゃあバニラは何になるんダ?」


 顔を上げたバニラが、きょとんとした顔で聞いてきた。


「うーん⋯⋯。お前は特にないんじゃないか?」

「なんでダ!? ご主人とセリアだけずるイ!!」


━━いやそんな事言われても。そもそもご主人って呼んでるのお前だけだぞ。


「ねえ⋯⋯」

「ん?」


 ルーイが俺の袖を引っ張ってきて、珍しく喋りだす。


「ライとバニラちゃんって⋯⋯どういう関係?」

「げっ。またその質問か⋯⋯。妹みたいなもんだよ」

「妹⋯⋯」


 てっきり、ご主人という呼び方にも突っ込まれると身構えていたが、ルーイは何やら考え込み始め、また黙ってしまった。


「ルーイどうしタ?」

「⋯⋯可愛いけど⋯⋯敵⋯⋯」


 ルーイがジト目のまま、バニラを睨んでいる気がする⋯⋯。


 その後やって来たナナカとセリアと共に食堂に行くと、例の双子が話しかけてきた。


「お久しぶりです! 皆さん」

「元気にしてたかしら?」


 あの王様ゲーム以来、顔を見かける事はあっても、俺は自分から話しかけようともしなかったし、向こうも今まで話しかけてこなかったのでこれには驚いた。


「お、おお久しぶり。王様ゲームではよくもやってくれたな?」


「もー! ライ君ったら、そんなの1ヶ月も前の事じゃない! ねー? フーリ?」

「そうだよー! ねー? お姉ちゃん!」


━━こいつら、だから1ヶ月も話しかけてこなかったのか。


「ところでライ君に聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」

「⋯⋯何です?」


 一変して真剣な顔になったフィオルに嫌な予感がして、俺は感情の無い機械のように聞き返す。


「あの日私、ノート置き忘れちゃったんですけどー、ライさんまさか⋯⋯中を見ちゃったりしてないですよねぇ~?」


 フーリが首を傾げながら、疑うように俺を見て言った。


「ノート!?!? い、いや気づかなかったよ⋯⋯」

「ほんとですかぁ~?」

「ほんとなのかな~?」


 2人からそむけた俺の顔を、双子は追うように覗き込んで、追い討ちの言葉をかけてくる。


「ホントダヨ⋯⋯」

「ふぅ~ん⋯⋯? ならいいんですけどねぇ~?」

「ふふっ。見てないって言ってるし、行きましょ? フーリ」


 嵐は去って行った。見たと言っていたらどうなっていたかを考えようとしたが、怖くなってやめた。

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