14話 和解?無表情という名の表情
「彼女はそんな事しない」
俺は我慢できず、思わずそう口にしてしまった。
「⋯⋯よく知ってるような口ぶり。お前はやつの何?」
「詳しくは知らない。彼女は、俺の命の恩人で⋯⋯師匠だ」
「━━やはり魔族の手下か」
ルーイは、静かに怒りを
「何故全ての魔族が悪だと決めつける? ユリアンロッドが、お前の兄貴を殺す所は見たのか?」
「⋯⋯目撃した者がいる。見た事も無い魔法を使う魔族が、兄を殺したと」
「ユリアンロッドとは限らないだろ⋯⋯。他の魔族じゃ━━」
「お兄ちゃんは手練れだった!! そのお兄ちゃんが殺されたんだ! 魔王の右腕で
、様々な魔法を操ると言われているやつの可能性は高い。それに、お兄ちゃんを殺した魔族を、私は許さない⋯⋯!」
ルーイは俺の言葉を
「魔王は死んだ。戦いは終わったんだ。それに"元"右腕だ。彼女は他種族を殺すのが嫌で、魔王軍を抜けたんだ」
「黙れっ!! 私の戦いは終わってなどいない!! そんな話⋯⋯信じるものか!」
魔王が死んで世界は平和になり、俺が今まで見てきたのは、平和ボケにすら感じる、幸せな側の人達ばかりだった。しかし、目の前にいる自分と同い年くらいの少女は、復讐に捕らわれた悲しい暗殺者だ。
俺が知らないだけで、ルーイのような人間は他にもたくさんいるのだろう⋯⋯。
前いた世界でもそうだ。俺の周りが平和だっただけで、そうじゃない人達もたくさんいたのだろう。
頭の何処かでは分かっていたはずだが、実際にそちら側の人間を目の前にし、平和な場所から平和になった場所へと来た俺は、自分がどれだけ幸福だったかに気づき、目の前の彼女に心底同情した。
「やつはお前の師匠だと言ったな? お前も見た事の無い魔法を使う。これで益々信憑性が高まった」
「⋯⋯だがこうも言った。彼女は、俺の命の恩人だと。人間である俺のな」
「⋯⋯それでやつの手下になったか。情報を吐かせた後、私を殺すつもりだろ? もう何を聞かれても喋ら━━なっ!?」
俺は地面に付けていた掌を離すと、ルーイの動きを封じている魔法を解いて、立ち上がった。
「最初から殺す気なんて無い。話をする為のただの脅しだ」
「⋯⋯」
ルーイはゆっくりと剣を構えるが、こちらには向かって来ない。どうやら迷っているようだった。
「お前が魔族を死ぬほど憎んでるのは分かった。でも、いい魔族だっていると思う。俺はユリアンロッドがそうだと信じてる。お前も、疑う前にまずは信じてみないか?」
「お兄ちゃんと同じ事を⋯⋯。でもそう言って、お兄ちゃんは魔族に殺された」
「魔族が信じられないなら、人間である俺の言葉でもいい。俺は師匠の命を狙うお前を殺さないし、その証拠に魔法も解除したろ? お前は分かってくれると信じてみたんだ」
「⋯⋯」
ルーイはしばらく悩んだ後、構えを解いて持っていた双剣を鞘へと戻した。
「ふぅ。何処に行ったか見当もつかないんだろ? だったら俺といた方が、むしろ会える確率も高いと思うぜ?」
「言っとくけど、私は完全に信じた訳じゃない。お前の事は、引き続き監視するつもり⋯⋯」
━━今までも監視されてたのか。確かに、いつもじーっと見られてたな。
「師匠に会えたら、3人で話をしよう。いきなり襲いかかるなよ?」
「⋯⋯善処する」
「襲いかかったら、また動きを封じるけどな。ところで、あの小屋を荒らしたのはお前なのか?」
「あれは私以外の暗殺部隊。もう命令は出てるから。昨日ここを見つけてたけど、既に逃げた後だったみたい。私も単独で、その後の行方を探したけど見つからなかった」
━━なるほど、昨日のえらい騒ぎはそれか。ただ普通に暮らしてるだけなのに、師匠が可哀想だ⋯⋯。逃げたらしいけど、大丈夫かな⋯⋯?
「でもそうなると、命令を待った方がよかったんじゃないか? 結局、部隊の方が先にここも見つけたんだろ?」
「居ても立ってもいられなかった⋯⋯。今更戻っても、任務には加われずに懲罰棒行き」
━━けど、そのおかげでこいつを説得できたんだった。本当によかった⋯⋯
「で、何処かに出掛けるお前が怪しいと思って、朝から尾行した」
「ずっと尾行されてたのか⋯⋯全然気づかなかった」
俺が驚くと、ルーイはちょっとだけ得意げな顔をした。
「さて、なら寮に戻るか⋯⋯。あ、そうだ。お前⋯⋯俺の事、上に報告したりしないよな?」
「しない。言ったはず。顔を出したら懲罰棒行きって」
「そうだったな。ならいいけど」
「⋯⋯信じて」
小さい声でそう言ったルーイは、少し笑ったような気がして━━俺達は、一緒に寮へと戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルーイとは和解できた。と、思うのだが⋯⋯その日を境にルーイの監視行為は、隠す気の無いただのストーカー行為となっていた。
「お、おはようルーイ」
「⋯⋯」
朝、食堂に向かおうと部屋のドアを開けると、いつも目の前に立っている。
「あ、いや、ただトイレに行くだけだって⋯⋯」
「⋯⋯」
トイレに行くたびについてくる。というか、基本何処でもついてくる。気づいたら隣にいる。
「なあ、さすがにここまでしなくていいだろ⋯⋯。もうちょっと信用してくれ」
「監視⋯⋯だから」
ルーイはまた、口数の少ない無表情ジト目女子へと戻っていた。あの日はよく喋ってたし、いろんな表情も見せていたのに不思議なやつだ。
だが、そのルーイがあの日以来、感情を見せた出来事があった。ルーイがいつもしている、髪留めの話をした時だ。
「ルーイって、いつも可愛い髪留めしてるよな?」
「⋯⋯持ってるのをつけてるだけ。留める事ができれば何でもいい」
そう言いながらも、ルーイの表情は少し嬉しそうだった。
「今日はさくらんぼか。毎日違うよな」
「う⋯⋯適当に選んでるから」
ルーイはこう見えて、実は可愛い者が好きなのかもしれない。無表情ながらも恥ずかしそうにする彼女を見て、俺はそんな風に思った。
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