13話 訪問!ルーイの正体

「それにしても、ナナカさん遅かったですわね?」


「うん。実はね━━」


 ナナカはルーイが部屋にいなかった為、寮内を今まで探し回っていたらしい。


「結局、朝から1度も部屋に戻ってないみたいなのよね。ずっと街にいるのかしら? でも朝、街の外に出てたらどうしよう⋯⋯大丈夫かな⋯⋯」


 あの放送があった昼頃から、街の入口には王国の見張りが配備され、外には出られない状態だと噂で聞いていた。


「あたし、やっぱ街までちょっと探しに行ってくるよ。何か様子もおかしかったしさ」


「俺も行くよ。やる事も無いしな。皆はどうする?」


 そう言ってレネ達の方を見る。


「あっ⋯⋯あの⋯⋯。ごめん! ぼ、僕部屋に戻るね!!」


 レネは俺と目が合うなり、焦った様子で走り去ってしまった。


「レネどしたんダ?」


━━多分、さっきの事が原因だよな⋯⋯


 残った俺とバニラとセリアとナナカで、ルーイを探す事となった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 しかし、街中を歩き回ってもルーイは結局見つからなかった。


「もう暗くなってきたし戻ろっか? ルーイも戻ってきてるかもだし」


 ナナカの言葉を合図に、俺達は寮に戻る事にした。


 寮の自分の部屋に入ると、レネがうつ伏せでベッドに寝ていた。眠っているのだろうか?


「あのさ⋯⋯?」

「へっ?」


 眠っているとばかり思っていたレネが不意に話しかけてきて、俺は間抜けな声をあげる。


「昼間の事なんだけどさ⋯⋯。僕、なんか雰囲気に流されちゃったっていうか⋯⋯その⋯⋯」


「あ、ああ~!! いや、実は俺もさっ! なんかお前の事、可愛いなとか思っちゃったりしてさ! ほ、ほらお前って中性的な顔してるだろ!? だから⋯⋯」


「あ、ありがと⋯⋯」


━━俺は、何を言ってるのだろう? 男に向かって可愛いって⋯⋯


「「⋯⋯」」


 沈黙が流れる。俺もレネも互いに言葉を発せず、静寂だけが部屋中を支配する。


━━気まずい⋯⋯


「おっ俺、シャワー浴びてくるな! レネはもう浴びた!?」


「あ、うん浴びた。だから、僕もう寝るね! おやすみ!」


「お、おお⋯⋯。おやすみ」


 シャワーを浴びた後、明日の予定がある俺も、さっさと寝る事にした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今日は休日だ。睡眠を挟む事で、レネとの気まずさも大分無くなっていた。


「レネは今日何するんだ?」


「僕は街に行くよ。ちょっと調べたい事あってさ。ライは?」


「俺は知人に会いに行く。行くって約束しててさ」


 休日になったら、師匠のユリアンロッドを訪ねると決めていた。街の外に出て規制が解除されていたら、今日会いに行くつもりだった。


「それじゃ、俺はもう出るよ」

「うん。いってらっしゃいー」


 まだ支度中のレネに声をかけ、俺は足早に部屋を出た。


━━そういえば、ルーイは結局帰ってきたんだろうか?


 気になった俺は、途中にあるナナカとルーイの部屋をノックする。


「ふぁーい⋯⋯? 何だライか」

「ナナカおはよ。ルーイは帰ってきたか?」


 まだ眠そうなナナカが寝間着姿で出てきたので、俺は尋ねた理由である疑問を早速聞いてみた。


「あー、うん。帰ってきたわよ。でも、また朝早くから出て行っちゃった。まったく⋯⋯こっちは凄い心配したってのに」


「そっか⋯⋯。帰ってきたんならいいんだ! ごめんな睡眠の邪魔して!」


「んー。ありがとね、心配してくれて」


 何事も無かったみたいで安心した。


 街の入口には王国の護衛などおらず、もう普通に出入りできるみたいだった。


「早いな。大した問題でも無かったのか?」


 首都ヴァルキアを出ると、師匠に早く会いたかった俺は、2年間を過ごした森へと向かって走り出した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふ~。やっと着いた⋯⋯。意外と距離あるんだよなぁ」


 深い森の更に奥深く、師匠の住んでいる小屋にようやく辿り着いた。


━━師匠喜んでくれるかな⋯⋯?


 小屋のドアをノックしてみたが、返事が無い。


「あれ? 出掛けてんのかな?」


 鍵などは付いていない為、迷う事なくドアを開けて中に入ると、小屋の中が酷く荒らされていた。


「何だ⋯⋯これ⋯⋯? 何でこんな━━」

「やはりお前は、やつの関係者」


 突然後ろから聞こえた声に、驚きながら振り返った。


「ルーイ⋯⋯?」

「吐いて。やつの居場所を。魔王の右腕、ユリアンロッドの居場所を」


 ルーイが双剣を手に持ち、俺を睨みながら立っていた。


「⋯⋯ここにはいないのか?」

「逃げた後。どこにいるか知ってるなら吐いて」


 双剣は鞘から抜かれている。という事は、"そういう事"なのだろう。


「知らない。だからこそ、俺はここに来たんだ」

「⋯⋯しかしここに来た事が、お前がやつを知っているという証拠」


 俺が右手の掌をルーイに向けると、ルーイはやや前傾姿勢になって剣を構えた。


「ルーイ、お前は何者なんだ?」

「それはこちらの台詞! 何故ただの学生がこの場所を知ってる!?」


 言い終えた瞬間、ルーイは体勢を低くしながらこちらに真っ直ぐ走って来た。


「ちっ。やるしかないのか! ダァァク⋯⋯ダァァーック!!」


 俺は、ルーイに向かって漆黒の炎の玉を撃ち出した。


「⋯⋯何? そのふざけた掛け声」

「ううううるさいっ!!!!」


 ルーイは前方に飛び、魔法に当たらないように身体を横向きに捻ってかわすと、そのまま一回転して着地した。


━━げっ。何だこいつ


「終わり!」

「⋯⋯それはどうかな?」

「━━!?」


 操作して戻ってきた漆黒の炎の玉が、ルーイの背後から近づく。が、今度は後ろに飛び、先ほどと同じ動きをしてかわした。ルーイに当たるはずの魔法は俺に当たり、身体を焼き付くしていく。


「くそっ! 情報を聞き出す前に自滅するなんて⋯⋯」


 自分で自分の魔法の威力をその身で感じながら、俺はまだまだなんだなと実感した。


━━師匠の方が何倍も威力があるな


「ダァァク⋯⋯バインドゥ!!」


 瞬間、漆黒の影が地面を這ってルーイの足元から身体に登っていき、動きを封じ込めた。


「な━━!? 何これ!? 動けない⋯⋯!!」


「フリーズの闇魔法だ」


 俺は、身体で燃え続けている漆黒の炎を相殺させて消す。


「あれを避けるとは、なんつー身の軽いやつだよ。避けられた場合の事も考えといて正解だったな」


「くっ⋯⋯また謎の魔法⋯⋯! やはり魔族の仲間か! さっさと殺して⋯⋯」


「話をしよう。俺の質問に答えれば殺さない」


 だからこそ、俺は動きを封じたんだ。もし炎の玉が当たった場合も、死ぬ前に消すつもりだった。


「まず、お前は何者なんだ?」

「⋯⋯私は、王国の暗殺部隊の1人」


 ルーイは、観念した様子で口を開いた。


「暗殺部隊⋯⋯。狙いはユリアンロッドか?」

「そう。半月ほど前、ヴァルキア付近に隠れ潜んでいるという情報を手にして、捜索していた」


 半月ほど前というと、ルーイが転入してきた時期だ。


「任務なんだろ? 何で学園になんか入ったんだ?」

「それは⋯⋯任務が下される前にこっちに来たから。隠れ簑として」


 つまりは独断専行。見つかったらどうなるのか考えてみたが、俺には想像もつかなかった。


「何で下される前に?」

「他の人間じゃなく、この私の手で⋯⋯ユリアンロッドを殺すため」


「⋯⋯怨みでもあんのか?」

「ある⋯⋯お兄ちゃんの仇」


 仇⋯⋯。師匠がルーイの兄を殺した? あの師匠がそんな事をするなんて、俺にはとても信じられなかった。

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