12話 親睦?仕組まれた王様ゲーム

 出会って早々の謎の提案に、俺とレネは驚愕した。ちなみに、バニラとセリアは王様ゲームが何かを分かっていないようだった。


「私達、転入生のあなた達とも仲良くなりたいんです。ね? お姉ちゃん?」


「ええ。そして、王様ゲームは急激に仲を縮めるのにぴったりの遊びよ」


━━こっちの世界にも王様ゲームってあったんだな。というか、こっちの世界と前の世界って、共通している事がけっこう多いんだよな⋯⋯


「それで、どんなゲームですの?」


「えっと、今回は6人ですね⋯⋯。まず、この割り箸をこうやって隠してっと⋯⋯で、1人ずつ順番に引いていきます。そして、印が付いてるのを引いた人が王様です」


 妹のフーリが鞄から6本の割り箸を取り出して、番号と印が書かれている先の部分を両手で握りしめると、王様ゲームの説明をし始めた。


━━何でそんなもん持ち歩いてんだよ⋯⋯


「王様は⋯⋯今回だと1から5までですね。その中から好きな番号を1つか2つ指定して、何でも好きな命令を出す事ができます。」


「○番が~をするとか、○番と○番が~をするといった感じね」


「面白そうですわ!! やりましょう!」


 フーリの説明に姉のフィオルが補足を入れた後、セリアが楽しそうに声をあげた。


「いや、僕はちょっとパスで━━」

「駄目ですわ! 仲良くなる為にやりましょう!」


 王様ゲームがどんなゲームか、おそらく知っているレネは逃げようとしたが、セリアに阻まれた。


「よく分からんガ、バニラ引いていいカ?」


「え!? えっと⋯⋯そ、そうですね。それじゃ、まずはバニラさんから。番号が他の人に見えないように引いて下さいね?」


 フーリは少し驚いた様子で答えると、バニラの方に割り箸を向ける。


「ンー⋯⋯。これダ!」

「あっ!!」


「フーリどうした?」


 またも驚いた様子を見せたフーリに、何事かと聞く。


「あ⋯⋯いえ何でもないです。まだ見ないで下さいねゴ━━バニラさん」


━━ゴ?


 その後も1人ずつ引いていき、フーリの合図で、全員自分の割り箸を確認する。


「はい。じゃ、王様誰ですかー」


 どこか気の抜けた感じで、フーリは言った。


「なんか、赤いのあるからバニラだナ?」


「まさか1人目で引くなんてね⋯⋯」


 フィオルが悲しげに呟く。


「命令だナ? えーっと、ご主人ガ━━」

「番号だ。番号」


「ご主人何番ダ?」

「⋯⋯教えない」


「ンー⋯⋯なら3番がバニラの頭を撫でロ」

「すげーな⋯⋯。お前の野生の勘」


 俺は、自分の3番と書かれた割り箸をバニラに見せた。


「やっター! ご主人ダー!!」


 バニラは嬉しそうに俺の前にやって来ると、しゃがんで頭を差し出してきたので、命令通り撫でてやる。


「でもわざわざ命令じゃなくても、こんなのいつもやってるだろ⋯⋯?」

「だって、バニラこれが1番嬉しイ⋯⋯」


「はい終了ー。ほらお姉ちゃん引いて」


 フーリは皆の割り箸を回収すると、フィオルに引くように促した。


「えー。もう終わりカ?」


 バニラが不満そうな顔で元の席に戻り、そして2回戦が始まった。


「はい! それでは、王様誰ですか!?」


 俺は5番だった。


「私よ!」


 フィオルは、誇らしげに赤い印を皆に見せる。


「んー⋯⋯えっと3番が5番を━━」


━━げ。


「抱き締める!!」


━━3番が5番をって事は、俺が抱き締められるのか⋯⋯


「待ってお姉ちゃん。5番が3番をの間違いじゃない?」

「いいえ。3番が! 5番を! よ。」

「分かってない⋯⋯」


━━何の話してんだ? どっちにしろ抱き合うやつは同じだろ?


「それで、3番と5番は誰なんですの? わたくしは1番ですわ」


「俺が5番だよ。また当たりだ。」


「んふ。はい、3番はだーれ? 名乗り出なさい?」


 フィオルはまるで女王様のようだ。


「うう⋯⋯僕だよ」


 レネが観念した様子で名乗り出た。


「いい? レネ君が! ライ君を! 抱き締めるのよ? 後ろからぎゅっとね」


 俺達は、しぶしぶソファーから立ち上がって近づき合う。


「まさか男に抱き締められるとはなぁ」

「うるさい⋯⋯。僕だってしたくてするんじゃないやい」

「まーでも、こんなのなんとでもないよな?」

「⋯⋯」


 俺が背中を向けると、少しした後にレネが遠慮がちに抱き締めてきた。


━━なんかこいつ、抱き締め方が可愛いな⋯⋯


「ね? 凄く⋯⋯いいわ」

「うん。これはこれでアリかも⋯⋯」


「? なー、もういいか?」


 俺は、こちらをぼーっと見ている双子に聞く。


「え!? そうね⋯⋯。いいわよ」


 だが、王様であるフィオルの許しが出たにもかかわらず、レネの腕は依然離れる気配がなかった。


「レネ? もういいってぞ?」

「⋯⋯うん」


 レネはゆっくりと腕を離すと、こちらを見る事なく席に戻っていった。


「レネ君切ないです。私は応援しますよ⋯⋯。という訳で3回戦ー!!!」


 フーリは遠い目をした後、元気よく叫んだ。


「次はフーリからね。私が割り箸を持つわ」


 そして3回戦目。俺の番号は2だった。また王様にはなれなかった。


「はい! 王様だーれだ!? ⋯⋯私でーす!」


 フーリは自分の質問に自分で答えた。


「王様の命令はー? 2番と3番がキスでーす!!」


「な!? おかしいだろ!? 3回連続だぞ!?!?」

「え⋯⋯って事は、まさか⋯⋯ライ?」

「まさか⋯⋯またレネ?」


━━俺、男とキスするのか!?


「ナー。キスって何ダ?」


「えっと⋯⋯唇と唇を⋯⋯その⋯⋯」


 バニラに聞かれたセリアが、恥ずかしそうに小声でごにょごにょと教えている。


「あー⋯⋯。"あれ"ナ?」


「え? バニラちゃん知ってらしたの?」


「知ってるゾ? キスくらいなんダ? 昔は、ご主人もよくバニラにキスしてきたゾ? バニラもいっぱいご主人の口を舐めたしナ」


━━おい辞めろ。それは、前の世界での話だろ


「あわわわわわわ」


 セリアは混乱状態だ。


「え!? 2人ってそういう関係だったの!? ⋯⋯両刀かしら?」

「レネ君の前でやめてあげてぇ⋯⋯!」

 

 双子は錯乱状態だ。


「バニラ! 余計な事を━━あ、レネ」


 レネがいつの間にか横に立って、こちらを真っ直ぐと見上げてきていた。


「え⋯⋯? 何? どした?」

「キス。するんでしょ?」

「え? まじですんの? 男同士で?」

「僕とはしたくない?」


 レネとずっと目が合っている。顔は凄く真剣で、不覚にも綺麗だと思ってしまった。


「王様の命令は絶対です!!」

「観念するのね。さぁ早く!」


 双子が期待するような目で見てくる。


 もう一度レネを見る。変わらず黙ってこちらをじっと見ている。


━━何この状況? やんないと駄目なの?


「分かったよ⋯⋯」


 俺のその言葉に、レネはかすかにびくっとして目を反らした。そして再び俺を見ると、ゆっくりと目を閉じて、背伸びした。


━━お前は完全に受け身なのね⋯⋯


 じっと待っているレネに、俺も目を閉じてゆっくりと唇を━━



「何してんの? あんたら⋯⋯」


 突如聞こえてきた声に、俺達は反射的に離れた。


「あああああー!!!! ナナカのバカー!!!!」

「あと⋯⋯あともう少しだったのに⋯⋯」


「フーリとフィオル⋯⋯。あー分かった。あんた達、また仕込んだ王様ゲームで好き勝手やってたんでしょ」


「仕込んだ⋯⋯だと? やっぱりじゃねーか! おかしいと思ったんだよ!!」


「⋯⋯テヘ☆」

「まずい。逃げるぞフーリ!」


 双子は、あっという間に走って逃げて行ってしまった。


「あ! こら待て! くそー⋯⋯って、ノート忘れて行ってるし」


「え⋯⋯え!? もう終わりなんですの!? そんな⋯⋯わたくしまだ王様も番号にも当たらず、何もしていないのに⋯⋯」


「またナー!」


━━そういえば、最初見た時も何か書いてたな。何が書いてあるんだろう⋯⋯?


 気になった俺は、騙された腹いせにノートの中を見てみる事にした。



『ほんとはずっとこうして欲しかったんだろ?』

『あっ。駄目ぇ⋯⋯』


 ライは、その可愛らしい顔とは不釣り合いな、雄々しくそそり立ったレネの肉棒を━━


 

 俺は⋯⋯黙ってノートを閉じた。

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